2013年03月21日

朝井まかて「ちゃんちゃら」

ちゃんちゃら

 朝井まかて 著
 「ちゃんちゃら」
 (講談社文庫)


江戸・千駄木町の庭師一家「植辰」で修行中の元浮浪児「ちゃら」。酒好きだが腕も気風もいい親方の辰蔵に仕込まれて、山猫のようだったちゃらも、一人前の職人に育ちつつあった。しかし、一心に作庭に励んでいた一家に、とんでもない厄介事が降りかかる。青空の下、緑の風に吹かれるような、爽快時代小説!−裏表紙より−


この作家さんの作品は2作目。以前読んだ作品は面白かったのですが、突然、話を終わらせてしまったのが残念で、今回も終わり方に不安を感じながら読み進めました。

・・で、不安的中。ある意味ハッピーエンド的ではあるのですが、もっとさわやかに、すべてを丸く収めて良い人みんなハッピー!で終わってほしかったです。


主人公は“ちゃら”という名前の庭師見習いです。元々、身寄りもなくたくさんの悪事を重ねながら生きていた彼が、「植辰」という庭師の辰蔵に拾われて育てられました。そして、庭師の仕事を手伝いながら、少しずつ彼自身も庭師として成長しています。

彼には、元来備わっている高い身体能力があり、そのお陰で高い木にもスイスイ身軽に登っていくことができます。

短気な所があり、少々問題はありますが、みんなからかわいがられているようです。特に、共に育ったともいえる辰蔵の娘・お百合とは何でも言い合える気の置けない関係です。


ある日、いつものように庭を手入れしていたところ、嵯峨流という謎の流派の白楊という人物がちゃらの前に現れました。そして、ちゃらを挑発するようなことを言い始め、カッとしたちゃらが取った行動で話が大きく進展します。

それ以来、何かにつけて妨害を繰り返す白楊に、植辰はどんどん追い込まれていきます。


庭師の仕事について色々知ることができましたし、庭やそこに植えられる植物や置かれる石、引かれる水の流れなど、文章で書かれているのに写真のように思い浮かべられるのはすごいと思いました。

出てくる人物たちもそれぞれ魅力的というか、キャラが濃くて面白く、悪役は悪役らしく、善人は善人らしいのも心地よかったのですが、そんな空気をひっくり返すような展開が待っていたのがショックでした。

前半をこんな平和な感じで進めるのであれば、最後も「正義は勝ち、悪は滅びる」という定番な展開が良いと思うのですが・・。

やっぱり残念な結末でした。


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2012年12月27日

諸田玲子「楠の実が熟すまで」

楠の実が熟すまで

 諸田玲子 著
 「楠の実が熟すまで」
 (角川文庫)


期限は初冬、楠の実が熟すまで。21歳の利津は、御徒目付を務める伯父に命じられ、潜入捜査のため京の下級公家・高屋家に嫁いだ。安永年間、禁裏での出費増大に頭を悩ませた幕府は、公家たちの不正を疑うが、探索のため送り込んだ者たちは次々に謎の死を遂げていた。最後の切り札として単身乗り込んだ女隠密・利津は、高屋家に夫の弟・右近が幽閉されているのを知る。証拠はどこに・・? 著者の新境地を拓く、長編時代ミステリー。−裏表紙より−


「時代ミステリー」なるほど・・という始まり方でした。ミステリー好きな人はきっと早い段階で、気持ちをギュッとつかまれると思います。

いきなり出てきた人物が突然、殺害されます。意味がわからず頭に「?」マークが一杯になりながらも、一気に話に引き込まれます。

しかも、連続殺人っぽい展開に。

誰が犯人なのか、なぜ彼らは殺されたのか、気になることが多くて、謎を解明したくて読み進めていると、主人公の利津が出てきて、彼女に伯父が説明することで、殺人の動機は明らかになります。

彼女に課せられたのは「公家の不正を暴くこと。懐に飛び込んで確かな証拠をつかむこと」でした。その難題を半年余りで成し遂げなければなりません。

すでに数名が証拠をつかみかけては殺害されています。そんな危険な任務を、女性一人、しかも何の訓練も受けていない女性に託した幕府。


彼女が選ばれたのは、勝気で真っ直ぐで当時の女性にしてはきちんと勉強しているからという理由なのですが、その良さがあまり発揮されることはありませんでした。

何だか普通の女性って感じで、情に流されますし、やたらとビクビクしています。まあその方が普通の人間らしくて良いのかもしれませんが、何で彼女を選んだんだろう?と疑問に思うこともありました。

「かなり危険な任務」とか「味方はいない」とか怖がらせていた割には、意外とあっさりと証拠を見つけてしまいますし、彼女の身に危険が迫る場面もほとんどありませんでした。

前半で盛り上げすぎたのかもしれません。私が勝手に盛り上がってしまったのか??


最後はキレイな終わり方をしていたので、読み終わったときにはスッキリできたのですが、少し盛り上がりに欠けたので残念でした。


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2012年12月10日

沖田正午「姫様お忍び事件帳 なんでこうなるの」

なんでこうなるの

 沖田正午 著
 「姫様お忍び事件帳 なんでこうなるの」
 (徳間文庫)


恋に破れて傷心のブスッ娘・菊姫を慰めるには旅に出るしかない。そう思った鶴姫は、馬鹿殿をああだこうだと説得し、屋敷を抜け出すことに成功。が、道中で助平浪人に襲われるわ、助平代官に狙われるわ、てんやわんやの大騒ぎ! ついに、本当の身分を明かさねばならぬときが来てしまったのか・・?こんな窮地は不細工な芋侍、いや、剣の腕が確かな亀治郎が頼りだ。えい、やっ、とう!−裏表紙より−


1冊目「つかまえてたもれ」を読んで、続きも読むつもりだったのですが、なぜか続きを買おうとしないので、間違えて買っていた6冊目を先に読むことにしました。

間がかなり空いているので、わからない部分も当然あるのですが、それでも話にはついていけました。

とりあえず、あらすじの冒頭に出てくる“ブスッ娘・菊姫”が誰なのか?がわからなかったんですけどねあせあせ(飛び散る汗) でもまあ、どうやら失恋したらしいこと、よくわからないが“姫”であること、鶴姫と仲が良いことなどがわかったので、何とか大丈夫でした。


菊姫が失恋して泣いてばかりいるので、見かねた鶴姫が、菊姫の故郷へあそびに行くことを提案します。もちろん、自分もついていくつもりですし、亀治郎も巻き込むつもりにしています。うまく言いくるめて許可を取り、早速出掛けた一行。3人だけではなく、菊姫の化粧係・お松とその婚約者、更には用心棒として知り合いの渡世人2人も連れて行きます。

総勢7人と、なぜか鶴姫の愛犬まで参加したため、7人と1匹での旅。

飛脚ならばその日のうちにつける距離だそうですが、歩きなれない女性が含まれているので、途中で一泊して行く行程に。それでもすぐに着くから、故郷で何か起きるわけか・・と思いながら読み進めました。

ところが、行く途中で次々と問題が発生し、いつになっても前に進まない・・。逆に戻ることもある始末。


旅慣れない人と旅をするとこんな感じになるのか?読んでいてイライラすることもあるくらい。とはいえ、憎めない雰囲気の鶴姫や菊姫がいるため、何だか「仕方ないね〜」と思えてくるんですよね。

亀治郎たち男性陣が気の毒になりつつ、でも時々笑いつつ、読みました。

剣の腕はほとんど見せ場が無かったですが、がんばったなと思います。最後まで読んでも故郷に着かないという長旅・・。次こそは到着するのでしょうか?


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タグ:沖田正午

2012年09月10日

冲方丁「天地明察 下」

天地明察 下

 冲方丁 著
 「天地明察 下」
 (角川文庫)


「この国の老いた暦を斬ってくれぬか」会津藩藩主にして将軍家綱の後見人、保科正之から春海に告げられた重き言葉。武家と公家、士と農、そして天と地を強靭な絆で結ぶこの改暦事業は、文治国家として日本が変革を遂げる象徴でもあった。改暦の「総大将」に任じられた春海だが、ここから想像を絶する苦悶の道が始まることになる−。碁打ちにして暦法家・渋川春海の20年に亘る奮闘・挫折・喜び、そして恋!!−裏表紙より−


上巻は、春海の人柄やどんな仕事をしていて、どんな家柄に生まれ、どんな境遇で育ったのか・・など、人物紹介の部分が多くて静かな印象でしたが、さすがに下巻になると話の展開が早かったですし、喜びと悲しみが交互に出てくる感じで、なかなか波乱の展開でした。

歴史小説なのに、刀で斬り合ったり、戦に出かけたり・・という部分が皆無なので、そういう意味では静かな話ではあるのですが。


上巻で行った北極星の観測のときに、今使われている暦の欠点を見つけていた春海。保科からの後押しもあり、暦を変換する仕事を開始しました。

今使っている暦は天皇が推薦している物なので、簡単に改善するわけにはいきません。これを覆すためには、今の暦が間違っているということを天皇たちや庶民たちにもわかるように明確に知らしめる必要がありました。

そこで月蝕の予想をすることで、今の暦と正確さを競うことにしたのです。ところが、2回はあてたのですが、3回目に外してしまったため、春海は非難されます。

落ち込む春海が向かったのは、ずっと会いたかった関の家。算術家として尊敬する彼に初めて会った春海は、関からいきなり罵られてしまいます。算術を使っておきながら失敗した春海のことが許せないと言うのです。

怒鳴られたことで逆にやる気を出した春海。関が以前から調べていた物も参考書として見せてもらえることになり、大いに前向きになりました。


色々な人に助けられ、励まされながら大きな仕事を成し遂げようとする春海の姿にはとても勇気づけられました。春海は本当に良い人たちに巡り合っているとも思います。でも良い人が周りに来るということは、春海自身がそれだけの魅力があるということなわけで・・。

この時代だから大変だったこと、この時代だから出来たことというのもあったとは思いますが、今の私たちにも当てはめられるような人の力のすごさを感じることができました。


下巻も始めの方から何度も泣かされましたし、その度に落ち込む春海が見ていられない感じでしたが、またすぐ立ち直ってがんばる姿を読むと、同じように気分が盛り上がりました。

春海と共に人生を歩んだ感じです。

最後までとても面白く読むことができました。

歴史小説が苦手だという方には読みにくいかもしれませんが、そうでなければぜひ読んで下さい。きっと感動できますよ。


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タグ:冲方丁

2012年09月07日

冲方丁「天地明察 上」

初めましての作家さんです。

天地明察 上

 冲方丁 著
 「天地明察 上」
 (角川文庫)


徳川四代将軍家綱の治世、ある「プロジェクト」が立ちあがる。即ち、日本独自の暦を作り上げること。当時使われていた暦・宣明暦は正確さを失い、ずれが生じ始めていた。改暦の実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が今、幕開く―。日本文化を変えた大計画をみずみずしくも重厚に描いた傑作時代小説。第7回本屋大賞受賞作。−裏表紙より−


普段、歴史小説をあまり読まないですし、あらすじを読むと“算術”と書いてあって不安になったのですが、読み始めると一気に話に引き込まれました。

確かに算術について色々と書かれているので、私には理解できていない部分も多かったのですが、理解できていなくても十分楽しめました。


主人公・春海が出会った難問を「関」と名乗る人物が瞬時に解いたことを知り、軽い嫉妬に似た感情を抱きます。関に興味をもった春海は、自ら問題を作って挑戦しようとします。

数日かけて考えた問題は、春海にとって最高傑作と思える出来の物でした。ところがその問題に欠点があったことがわかり、苦悩することになります。

自分が考えた誤問について後悔していたとき、春海が仕える人物からある重大な任務を任されることに・・。それは暦を考える上でとても重要な意味を持つプロジェクトで、日本各地へ行って、北極星の位置を測って記録するという物でした。

建部、伊藤という2人の専門家と共に旅に出た春海は、2人の人柄や考え方にどんどん惹かれていきます。彼らの壮大な夢を聞かされた春海は、彼らにその夢の実現を誓います。


春海が苦戦した難問はもちろん、誤問となった問題の意味もはっきり言って全くわかりませんでした。星の観測の場面でも詳しい部分までは理解できていないと思います。

それでも、春海が惹かれた2人の人物に私も惹かれてしまいましたし、最後には春海と共に涙してしまいました。

上巻ではまだ暦作りは本格化していません。下巻で仕上げると思うので、どんな困難や幸福が待っているのか、楽しみに読むことにします。


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2012年06月09日

アンソロジー「きずな 時代小説親子情話」

きずな

 細谷正充 編
 「きずな 時代小説親子情話」
 (ハルキ文庫)


<親子というのは人間社会における、最小単位のコミュニティであろう。血の繋がりで、あるいは一緒に暮らしてきた歳月で作り上げてきた親子の間には、切っても切れぬ絆が生まれるものである。>(編者解説より) 宮部みゆき「鬼子母火」、池波正太郎「この父その子」、山本周五郎「糸車」、平岩弓枝「親なし子なし」の傑作短篇に、文庫初収録となる高田郁「漆喰くい」を収録した時代小説アンソロジー。五人の作家が紡ぐ、親子の絆と情愛をご堪能ください。−裏表紙より−


大好きな3人の作家さんの作品が収録されているということなので、読まずにはいられないでしょう!


池波正太郎さんの作品は、確かに「親子もの」ではあるのですが、ちょっと他とは違う感じでした。でもこの作家さんらしいといえる作品だと思います。「家」や「家臣」だけではなく、心を通い合わせた人を大事にし、相手を想いやる気持ちが、読者の気持ちも温かくしてくれるような、何とも深い話でした。


高田郁さんの作品は、母親を思いやる娘の話で、相変わらず涙なしでは読めない作品でした。豆腐が贅沢品とされていて、農民は口にできない食べ物だった時代、病気の母が何も食べられなくなって弱っていくのを見かねた娘のふみが、豆腐を買いに行きます。親切な豆腐屋さんに出会ったふみは、豆腐の作り方を教えてもらい、自分で母親の為に作ることに。その豆腐を食べた母親は元気になります。でも豆腐は食べてはいけない食べ物・・。豆腐というには不格好だったその食べ物に「漆喰くい」という名前を付けて何とか役所の目をごまかそうとするのですが・・・。

主人公・ふみの母親を思いやる気持ち、豆腐屋の女主人の心意気など、「人って良いな〜」と思えるような温かい話でした。


山本周五郎さんの作品は、題名ではわからなかったのですが、読み始めるとすぐに読んだことのある作品だと気づきました。再読どころか、たぶん何度も読んでいるはずの作品で、結末を知っていたにも関わらずやはり泣いてしまいました。ぜひ読んでもらいたいです。


他の2作品は、新たな出会いが出来ればいいなと思いながら読みました。

宮部みゆきさんの作品は合わない場合もあるので心配でしたが、なかなかおもしろく読めました。感動よりも少し不思議な雰囲気の作品。この作家さんの時代小説も読んでみようかな?と思いました。

平岩弓枝さんの作品は初読みでした。どうやって締めくくるのか?と期待しながら読み進めていったのですが、私の思う結末にならず、ちょっと不満の残る内容でした。ある意味ではハッピーエンドなのでしょうが、私的には違ったんですよね・・。残念です。


大好きな3人の作家さんの作品を堪能出来て、大満足の一冊でした。誰か一人でもお好きな作家さんがおられるなら、一度読んでみては?新しい作家さんに出会えるかもしれませんよ。


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2012年03月12日

朝井まかて「花競べ 向嶋なずな屋繁盛記」

初めましての作家さんです。

花競べ

 朝井まかて 著
 「花競べ 向嶋なずな屋繁盛記」
 (講談社文庫)


花競べ―最も優れた名花名木に与えられる称号・玄妙を目指し、江戸中の花師が育種の技を競い合う三年に一度の“祭”。恩ある人に懇願されて出品した「なずな屋」の新次は、そこでかつて共に修業した理世と再会する。江戸市井の春夏秋冬をいきいきと描く傑作「職人小説」。−裏表紙より−

“花師”というのは、花の種や苗を作ったり、品種改良をしたり、花を育てて売ったりする職人のことです。

新次は職人らしく頑固な所もありますが、花を愛して育てる気持ちは誰よりも強く、花のこととなると周りが見えなくなるくらい没頭してしまいます。そんな彼を支えるのが妻・おりん。彼女は新次の育てた花に「お手入れ指南」(水のやり方や置き場所などを書いた紙)を付けることを思いつきました。

そんな努力もあり、人気の店になっています。そして、花競べに出品することになります。・・どんな結果になったのか?は書きませんが。

新次・おりん夫妻には子どもがいません。知人から預けられた子ども・雀を育てることになり、彼との生活は二人に潤いと幸せを与えてくれました。

また、偶然知り合った太物問屋の隠居・六兵衛との縁も二人に様々な出会いをくれました。


花や夫婦の関係を通して、命の大切さや尊さなどもテーマになって物語は進められ、考えさせられることもありましたし、夫婦の関係が微笑ましく、花師の仕事も興味深く、雀のかわいらしさもあり、とても楽しく読み進めました。


きっと1冊で終わらず、シリーズになって続きも出るんだろう・・と思っていたのですが、とてもあっさりと後日談(というか、数年後)が書かれ、どうやら終わってしまったようです。

終わり方はどうにも納得できず、それまでが面白かっただけにとても残念です。


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タグ:朝井まかて

2011年09月30日

沖田正午「つかまえてたもれ」

初めましての作家さんです。

つかまえてたもれ

 沖田正午 著
 「つかまえてたもれ」姫様お忍び事件帳1
 (徳間文庫)



武州槻山藩の小坂亀治郎は、初めての江戸での休暇を楽しもうとしていた。ところが偶然出会った娘を助けたところ、娘が付いて来てしまった。娘はお鶴という名前で、どうやら身分が高いらしい。訛りのあるうだつの上がらない亀治郎と世間知らずのお姫様・お鶴はある事件に巻き込まれていく・・。


表紙の絵に惹かれて買ったこの本。「しゃばけ」シリーズよりも軽い話しで、あっさりと読み切ることができました。軽すぎる感じはしますけど、まあ面白かったかな?と。


亀治郎は冴えない風貌の男。算盤が得意なので、勘定方にいるのですが、実は見た目からは想像ができないくらい腕が立つ男でもありました。藩の中で3指に入るほど。急遽、警護の任務に就くことになり江戸まで来た亀治郎は、数日間の休暇をもらい、憧れの地「吉原」へ行こうとしていました。

ところが、途中で娘が拐されそうになっているのを見かけ、自慢の腕で助けました。そして娘・お鶴と行動することに。お鶴というのは明らかに武家の娘で、身分を聞いて驚くような位の高い家の娘でした。本来なら亀治郎ごときが直接口をきくことなんてできないくらい。

でも本人たっての希望で「お鶴ちゃん」と呼びつつけることになりました。そんな奇妙な二人は、別の娘との出会いによって事件に巻き込まれていきます。


身分の高い姫がお忍びであそぶ・・というありがちな展開ではありますが、お陰で最後まで安心して読むことができました。絶対に正義は勝つ!だろうという安心感が良いです。

登場人物もたくさんいたのですが、あまりキャラが確定していない感じがしました。亀治郎の剣の腕もほとんど活かされませんでしたし。

きっと2作目以降で変わっていくのでしょう。それも楽しみにしつつ、また続きを読もうと思います。


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2011年06月09日

和田竜「のぼうの城 下」

のぼうの城 下

 和田竜 著
 「のぼうの城 下」
 (小学館文庫)



石田三成からの使者に対して「戦いまする」と宣言した成田長親。戦ができることを喜んだ三成は忍城の各門に向けてそれぞれ大軍を攻め込ませた・・。圧倒的に軍の数が違う中、どうやって忍城を守るのか?


上巻では、百姓たちも城に集まり“のぼう様”こと長親のために立ち上がった所で終わりました。

そして下巻になり、いよいよ戦いの火蓋がきられることに・・。

忍城の門を守るのは、正木丹波、柴崎和泉、酒巻靱負の3人。

丹波が守る門を攻めてきたのは長束正家の率いる軍。鉄砲隊を横一列に配し、この地方独特の深田の中を進軍させてきました。深田に足を取られて、なかなか一列で進めない軍を見て、丹波は自ら先頭に立って討って出ました。そして、自軍の鉄砲隊を馬に乗せ、後ろからどんどん撃たせたのです。

当時の鉄砲は、弾をこめるのに時間がかかり、更に火がつけられてからも長い・・。つまり、一度撃ってしまうとなかなか次が撃てないのです。それをうまく利用して攻めまくりました。

靱負が守る門を攻めてきたのは三成の率いる軍。靱負は初陣でありながら、なぜか老兵ばかりをすすんでもらい受け、自分の軍に入れました。彼らは靱負のことを息子や孫を見るような優しい目で見て、色々と世話を焼いたり、アドバイスをします。そんな老兵たちをうまく使って、敵軍を森へ導き、攻めていきます。

和泉が守る門に攻めてきたのは吉継の率いる軍。圧倒的な力で容赦なく鉄砲を撃ってくる彼らに対し、なすすべなく見ているだけの和泉。守る門を壊しに敵軍がやって来た所をうまく利用して、水攻めにして鉄砲隊を全滅させました。

・・と、なかなか頭の良い戦い方。寄せ集めの兵の気持ちをガッチリつかみ、士気を高めて数以上の力を発揮させた天才的な戦法に感心しきりでした。

そして、一度は撤退した三成軍は、次に水攻めを仕掛けます。短期間で堤を築き、一気に忍城の周りに水を巡らせ孤立させました。これも結局は破られるのですが、その方法は書かないでおきます。


で、肝心の長親ですが・・。個性豊かな家臣たちや百姓たちを惹きつけておく魅力がある・・ということはわかったのですが、特別頭がよく回るとか機転がきくというわけでもなさそうでたらーっ(汗)

まあ人を惹きつけるというのも大事な才能ですからね・・。

意外と石田三成がそそっかしいというか、子どもっぽい所があって憎めない感じがしました。だからこそ、こんな終わり方ではなく、両者が納得できるまで死力をつくして戦ってほしかったような気もしました。そうなると、巻き込まれる百姓たちがかわいそうですけど・・。


歴史小説ではありますが、わかりやすくて読みやすいと思います。あっさり読めてしまいますし・・。



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この本の表紙、上下巻を並べると、敵同士が見合っている感じになります。上巻は“のぼう様”こと成田長親、下巻は石田三成の絵だそうです。

タグ:和田竜

2011年06月04日

和田竜「のぼうの城 上」

ずっと本屋さんで平積みされているのは見ていたんですが、歴史小説ってあまり読まない人なので、手に取ることはありませんでした。

そんな私に知人が貸して下さったので、読んでみました。


のぼうの城 上

 和田竜 著
 「のぼうの城 上」
 (小学館文庫)



戦国時代、豊臣秀吉は天下統一のために関東の北条家に軍を進めた。その中に難攻不落の「浮城」と呼ばれる忍城があった。秀吉の配下である石田三成は約2万の大軍を率いて忍城に迫る。それに対してわずか5百の軍で迎え撃つのは城代・成田長親。彼は「のぼう様」と呼ばれる木偶の坊だが、なぜか領民の心をがっちりとつかんでいるのだった。


かなり久しぶりに読む歴史小説。前半の序章から1章にかけてはほとんどが時代背景や人物紹介にさかれていて、その部分がどうしても読みにくくてなかなか進みませんでした。

時々ぼーっとしてしまう感じで・・たらーっ(汗)戦国時代は結構好きなんですけど、私は信長が良いんですよね〜

秀吉の愚かな振りをして実は底知れぬ雰囲気を持つ感じとか、三成の頭の固い武将ぶりとか細かくわかるように書かれてはいるのですが、どうしても入りにくかったんですよね・・。まあ、私が秀吉が嫌いだからかな?とも思うんですけど。

2章に入ってからは忍城側の話がメインになってきて、出てくる人たちも魅力的で面白くなってきました。

三成はこれまであっさりと城を明け渡す武士たちを見てはため息をついていました。なんて無様なんだ・・と。だから、忍城に話をしに行くときにはちょっとした仕掛けをしたのです。

そして、まんまとその仕掛けに踊らされた忍城の人たちは、大軍を相手にしては勝てないことを知りながら戦うことを決めます。武士らしく戦って死にたい!というわけです。

忍城を指揮するのは、成田長親。「のぼう様」と呼ばれる、不器用であけっぴろげな性格の武士らしくない武士。それをそばで支えるのは長親の素質を信じてずっと側にいる家老の正木丹波。彼が長親を信じる発言をすることで、読者も何となく長親のことを信じたくなるように仕向けてあります。

そんな一見頼りない長親が三成の大軍と戦うことをいきなり決めてしまったことで、大慌ての家臣たち。そして、領民たち。

5百という少ない軍でどうやって2万の大軍と戦うのか?とても気になる所で上巻は終わりました。


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2009年11月24日

佐藤雅美「物書同心居眠り紋蔵」

佐藤雅美著 「物書同心居眠り紋蔵

(講談社文庫)


家族から借りた本です。初めて読む作家さんです。

南町奉行所に勤める藤木紋蔵は、すぐに居眠りをしてしまうという奇病のせいで外回りには出してもらえず、内勤の物書同心をしている。子どもが拾ったという財布が奉行所に届けられた。後日落とし主が現れたが中身の金額が少ないと言う。拾った子どもが懐に入れたのか、それとも父親か?気になった紋蔵は拾った子どもに話を聞くため長屋へ向かう−「お奉行さま」他「不思議な手紙」「出雲の神さま」「泣かねえ紋蔵」「女敵持ち」「浮気の後始末」「浜爺の水茶屋」「おもかげ」の計8編収録


居眠りという奇病を持っていて・・という話だったのですが、実際にはあまり居眠りをしませんがく〜(落胆した顔) 家では居眠りをして注意されますが、仕事場ではそうでもなく・・。全くしないわけでもないんですけど、これくらいなら許されるんじゃ??という程度です。

もっと居眠りしたせいで何か起きた・・みたいな話があっても面白かったのかな?とか思います。偉そうに書いてしまいました・・すみません

不思議な手紙」は、下馬先の騒動の話。登城するときは今で言う「通勤ラッシュ」のように登城口が混み合うんですよねバッド(下向き矢印) そこでの騒動を解決してほしいと紋蔵に依頼があります。

出雲の神さま」は、離縁されて持参金を騙し取る旦那の話。「結婚詐欺」とは違って、一度は結婚するわけですが持参金を取ってすぐに離婚する・・を繰り返すんです。

泣かねえ紋蔵」は、岡場所の仲裁を任された話。袖の下を貰っている役人からも岡場所の経営者からも恨まれて、理不尽な理由で謹慎させられてしまいます。

女敵持ち」は、妻に浮気され駆け落ちされた武士の話。主君から「敵討ちをするまで戻るな」と言われて仕方なく敵を探す旅に出たわけですが、敵討ちは普通、親とか子どもとかを殺害された場合であって、妻の敵というのはありません。本来なら隠しておきたい出来事ですから。それでやる気を出せない、でも周りからは急かされる・・苦悩する武士に同情しつつも上役の命令で追い出さないといけない紋蔵の苦悩が書かれています。

浮気の後始末」は、義父の浮気の話。浮気相手が身籠ってしまい、その後始末を任されてしまった紋蔵です。

浜爺の水茶屋」は、小僧の盗みから発展した事件。今度は義母から頼られてしまいます。

おもかげ」は、幼馴染で子どもの頃憧れの存在だったぎんの話。憧れの女性の本性を見てしまいショックを受ける紋蔵です。


全体的にすっきりと解決する話が少なかった気がします。「余韻」とか「後は想像に任せます」とかとは違って、本当に「これで終わり?」って感じです。

刀を振り回すこともほとんど無く、地味な設定ですが、紋蔵の人柄に惹かれて読み進めてしまう感じでした。


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今読んでいるのは・・

2009年09月21日

藤沢周平「春秋の檻」

藤沢周平著 「春秋の檻 獄医立花登手控え1」

(講談社文庫)


時代小説で好きなのは、山本周五郎や池波正太郎で、この2人の作品は自分でも買って読むくらいなのですが、藤沢周平は読まず嫌いでした。何となく暗いイメージがあったんですよね・・ふらふら

家族からこの本を借りて読んで、そのイメージが払拭されましたぴかぴか(新しい)


主人公は、牢獄に入っている囚人を診る医者をしている立花登。医者の修行のために叔父の家に居候しているのだが、その妻である叔母やその娘にいい様にこき使われて肩身の狭い思いをしている。囚人から相談や悩みを打ち明けられたり、頼み事をされたりして事件に巻き込まれる。


居候の身で家に帰りにくいせいもあり、仕事熱心にならざるを得なくて、牢獄にいる時間も多く、囚人から頼まれた事をかなえるために町を出歩いたり、大好きな柔術の道場へ通ったりしているわけですが、それでも洗濯物を頼みに家に戻らなくてはならず、たまに戻っては庭の掃除、木の剪定、屋根の修理などなど、用事を言いつけられてかわいそうな状態なんです。でも熱心に働いている立花を見て、少しずつ(本当に少しずつですが)家での待遇が良くなっていくのが笑えます。

時代小説でありがちな、剣が強くてバッサバッサと悪者を切り倒す・・みたいなタイプではなく、柔術の名人なので、刀で切りつけられたら「サッとかわして腕を取り、投げる!」みたいな倒し方をします。血なまぐさくなくて良いな〜と揺れるハート

町や人の描写も細かくて、目の前に様子が浮かぶようです。これが藤沢周平らしい・・ということなんでしょうか。

短編集なので、読みやすいのも良いですね。ただ、やはりこの「春秋の檻」1話目から読み始めないと、待遇が良くなっていく様とかが楽しめないので、ぜひこの作品からどうぞ。

立花登シリーズはこの後、「風雪の檻」「愛憎の檻」「人間の檻」と3冊続きます。


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