2018年09月27日

安住洋子「み仏のかんばせ」

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 安住洋子 著
 「み仏のかんばせ」
 (小学館文庫)


女衒に手込めにされ逃げだした志乃は、江戸に出て松助と名乗り、首切り役人として名高い山田浅右衛門の下で男として中間奉公をしていた。ある日、山田家にとって大切な罪人の肝を夜盗に奪われてしまい、家に迷惑をかけるのを恐れて中間奉公を辞した。針売りになった志乃だったが、憧れていた壮太が同じ長屋に越してくる。普通の幸せを諦めかけていた志乃も、壮太と気持ちを確かめ合い夫婦になる。しかし、壮太にも隠された過去があった! 人に言えない秘密を持つ者同士が、互いを支えて懸命に生きる姿を描いた、感動の人情時代小説!−裏表紙より−


以前読んだ「しずり雪」が面白かったので、こちらもネットで購入。

でも、「しずり雪」ほど面白くなかったかな・・。


志乃という主人公が、松助と名乗って男性として中間奉公をするという始まりは面白かったのですし、その奉公先が首切り役人の家というのも魅力的でしたが、中間を辞めて女性に戻ってからは・・。

女性として描かれる方が長かったのでそれが残念です。

女性として、想い人と結ばれたわけですが、そのお相手にも何やら暗い過去があるようで、それもあっさりと明かされてしまいますし、そこからも軽い感じで話は進むのでもう少しページ数を増やしてじっくり書いてほしかったです。

もう一山、ふた山欲しかったかな?

志乃の人生を最後まで描かなくても良かったような。その分、首を切られる武士の気持ちや人生、女性として生きる大変さ、夫となった男性の葛藤などを長く深く描いてもらえたら・・。

泣きかけては泣けず、の繰り返しになってしまいました。


とはいえ文章は読みやすいので、また他の作品に挑戦してみようと思います。


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タグ:安住洋子

2018年08月31日

坂井希久子「ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや」

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 坂井希久子 著
 「ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや」
 (ハルキ文庫)


家禄を継げない武家の次男坊・林只次郎は、鶯が美声を放つよう飼育するのが得意で、それを生業とし家計を大きく支えている。ある日、上客の鶯がいなくなり途方に暮れていたときに暖簾をくぐった居酒屋で、美人女将・お妙の笑顔と素朴な絶品料理に一目惚れ。青菜のおひたし、里芋の煮ころばし、鯖の一夜干し・・只次郎はお妙と料理に癒されながらも、一方で鶯を失くした罪責の念に悶々とするばかり。もはや、明日をも知れぬ身と嘆く只次郎が瀕した大厄災の意外な真相とは。美味しい料理と癒しに満ちた連作時代小説、新シリーズ開幕。−裏表紙より−


初めましての作家さんです。

そのせいか文章に慣れるまでちょっと時間がかかってしまいました。同じ行を何度が読んでしまったりして・・。1話目の後半に差し掛かる頃にはすっかりはまっていて、登場人物たちも魅力的で次々読み進めました。

1話目が、只次郎という武士(とはいえ、町人のような気さくさをもつ男性)の視点で描かれていて、女将・お妙はちょっと謎めいた存在だったので、このまま私生活は明かされずに進むのか?と思っていたら、次からはお妙の視点でも描かれていました。

素朴な料理を出す「ぜんや」。町人はもちろん、只次郎のような武士にも贔屓にされてなかなか繁盛しています。名物は美人女将・お妙。そして、その義理の姉・お勝。

お妙は顔と料理の腕が魅力なのですが、穏やかな性格も人気の理由です。一方、お勝はお妙の亡き夫の姉なのですが、年齢もいっていますし、はっきり言って美人とは言い難いのですが、サバサバした性格が魅力。

誰が相手でも言いたいことをはっきり言ってしまうのが、逆に心地良いと思われているようです。

そんな2人の魅力と美味しい料理でもてなしてくれるので、常連がたくさんいるのも納得です。

「ぜんや」には、只次郎が持ち込む問題や、他のお客が絡んだ問題などが持ち込まれ、それをみんなで解決していくわけですが、そこにはこの時代の人たちの苦労や生き方などが描かれています。

只次郎も気楽な次男坊となってはいますが、次男坊ならではの苦労もあるようです。

この只次郎を始め、出てくる人たちがそれぞれ良いキャラクターで、すっかり魅了されてしまいました。

シリーズは続いているようなので、忘れないうちに続きも手に入れたいです。


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タグ:坂井希久子

2018年01月11日

葉室麟「散り椿」

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 葉室麟 著
 「散り椿」
 (角川文庫)


かつて一刀流道場の四天王と謳われた勘定方の瓜生新兵衛は、上役の不正を訴え藩を追われた。18年後、妻・篠と死に別れて帰藩した新兵衛が目の当たりにしたのは、藩主代替りに伴う側用人と家老の対立と藩内に隠された秘密だった。散る椿は、残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるもの――たとえこの世を去ろうとも、ひとの想いは深く生き続ける。秘めた想いを胸に、誠実に生きようと葛藤する人々を描いた感動長編。−裏表紙より−


この作家さんの作品を読むのは2作目。他にも評判が良い作品があるので、次はそれを読もうか?なんて思っていたら、作家さんが亡くなられたとの報道が・・。まだ60歳代なのに残念です。出来るだけ早く他の作品も見つけて読みたいと思います。



一度は国を離れた瓜生新兵衛が、18年という月日が流れてから戻ってきます。彼は、18年前に上役の不祥事を暴こうとして、追い出されるように国を離れたのですが、妻が亡くなるときに遺した言葉を胸に戻ってきました。

亡き妻の妹のもとに身を寄せることになりました。その家には甥である藤吾がいました。


久しぶりに戻った新兵衛が見た藩は、側用人と家老の対立が起きている状態でした。藩主を味方につけて自分が権力を握ろうと考えていたのです。

そんな不安定な状況の中、彼が戻ってきたことで、それぞれが思惑を抱えて動き始めます。

血なまぐさい事件も起こり始め、甥という立場の藤吾もどちらに付いていけば良いのか悩んでしまいます。藤吾が信じていた人物や信念が次々と覆されてしまい、藤吾自身も狙われるはめに。

始めは、新兵衛さえ戻ってこなければ・・と疎んじていたのですが、彼の真っすぐな想いに魅了されていきます。


始めのうちはよくあるお家騒動が描かれているだけなのですが、隠密活動を行う謎の組なんかが出てきて若干混乱ぎみになりました。この組も意味があったのか、最後まで必要性が感じられませんでした。

また、途中で亡き妻の視点で描かれるところが出てきたのも残念でした。もう亡くなっているのですから、遺された手紙などを読むような形であれば納得できますが、生きているかのように想いが描かれるのはちょっと興ざめでした。

これが描かれることでより細かい想いがわかるようにはなっているのですが、読者が想像するだけでも良さそうです。


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タグ:葉室麟

2017年10月04日

土橋章宏「引っ越し大名三千里」

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 土橋章宏 著
 「引っ越し大名三千里」
 (ハルキ時代小説文庫)


徳川家康の血を引く譜代大名でありながら、生涯に七度の国替えをさせられ、付いた渾名が「引っ越し大名」という不運の君主・松平直矩。またもや幕府から国替えを命じられたものの、度重なる激務によって亡くなった「引っ越し奉行」の役目を継がされたのは、引きこもり侍と後ろ指を指される若輩者の片桐春之介だった。「人無し・金無し・経験無し」の最悪の状況で、果たして姫路播磨から豊後日田への国替えは成功するのか? 上司からの無茶振りに右往左往する武士たちをコミカルに描き、時代劇に新風を吹き込んだ新鋭が描く傑作時代小説。−裏表紙より−


初めましての作家さんです。

コミカルな時代小説で読みやすい文章でした。

歴史は好きですが、詳しくは無いので、松平直矩という武士が本当にいたのか知りませんでした。読み終わって調べたところ、どうやら実在の人物のようです。しかも本当に「引っ越し大名」と渾名を付けられるくらい、国替えをしていたようです。

今みたいに、引っ越し業者に頼めば、トラックでサラッと運んでくれるなんてこと無いわけで、しかも国替えですから、殿様を始め家臣も全員引っ越さないといけないわけです。

ということは、荷物がどんなにたくさんになることか・・。それを人の手で何日もかけて歩いて運ぶんですから、何人要るやら。大人数になるとそれだけ賃金も必要になり、馬や荷車を使うとそのレンタル料もかかり、それぞれの旅費も考えると頭が痛い状況・・。

そんな大変な国替えを、人生で7回もだなんて! 借金に次ぐ借金になるのは仕方ないことです。


誰もが遠慮したい「引っ越し奉行」という役職に、引きこもりで「かたつむり」と渾名が付けられているのんびりした男・春之介が命じられます。ある種、嫌がらせのような抜擢なのですが、この時代に命じられたことを「嫌です」とは言えないので、仕方なく役目を果たそうとします。

でも、前職が亡くなっているため勝手がわからず右往左往するのは仕方ないことで、そのあたふたする様子がコミカルに描かれていて、何度もクスリとさせられました。

特に、春之介が上役にまで「自分の荷物を減らせ!」と言って、どんどん捨てて行った場面は笑えました。昔も「断捨離」ってあるんだ〜と妙に感心。実は今より切実な悩みでしょうね。偉い人から頂いた刀とか書とか、簡単には捨てられない物が多そうです。


今までさぼってきたツケが回ってきたかのような大変な目にあいつつ、何とか国替えをがんばる春之介の姿に、最後は感動させられました。彼の成長物語として楽しめる作品でした。


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タグ:土橋章宏

2017年06月05日

安住洋子「しずり雪」

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 安住洋子 著
 「しずり雪」
 (小学館文庫)


老中・水野忠邦の改革が始まり、苛烈な奢侈取り締まりで江戸庶民たちの心も暮らしも冷え切っていた。幼なじみの小夜と所帯を持ったばかりの蒔絵職人・孝太も、すっかり仕事が途絶え、苦しんでいる。そこへしばらく連絡もなかった幼い頃の友達が、ご禁制の仕事を持ち込んできた―。切ないほどの愛、友情、そして人情。長塚節文学賞短編小説部門大賞を受賞した表題作「しずり雪」ほか、三編を収録。人生の哀感に心が震える、珠玉の時代小説集。−裏表紙より−


初めましての作家さんです。ネットでの評判通り、読みやすくて温かい物語でした。


短編になっていて、どれも印象的で面白かったですが、表題作の「しずり雪」を読んだときには、もっと長く読んでいたいと思いました。

短い話なのに、登場人物たちに対して思い入れたっぷりになってしまい、離れがたくなったんですよね。この先、この2人はどうやって生きていくんだろう?と心配にもなりましたし。

でも次の話に入ると、また次の登場人物たちに引き込まれていき、彼らの心配をしてしまう自分がいました。


全ての短編に、「友五郎」という岡っ引きが出てきますが、彼がまた良いんです。ちょっと不器用な感じではあるのですが、心遣いはとても細かくて、義理人情に篤い人。

彼の言葉で救われたり、勇気づけられる人がたくさんいます。彼の心の内を読んでほろりとさせられる部分もたくさんありました。


どの話にも不器用に真っすぐにしか生きられない人たちが出てきて、読むと苦しくなる所もあります。でもそんな人たちが救われていくラストになっていて、どれも温かい気持ちになれる話でした。

時代が違ったらもっと楽に生きられたかもしれない人もいて、切なくなることもありました。もっと楽に生きられる時代だったら良かったのに。


この作家さん、かなりお気に入りになったので、次も探して読んでみようと思います。なぜかなかなか見つからないのですが・・。


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タグ:安住洋子

2017年05月02日

千野隆司「夕霞の女 神楽坂化粧暦」

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 千野隆司 著
 「夕霞の女 神楽坂化粧暦」
 (宝島社文庫)


「金の切れ目が縁の切れ目」とばかり、武家の若妻・登世は理不尽にも離縁されてしまった。途方に暮れる登世は、神楽坂の岡場所の娼家・夕霞楼の下働きとして雇われる。境遇の変わりようを嘆く登世だったが、より哀しい立場の女郎衆を目の当たりにし、登世の感性が磨いた化粧の技で、彼女たちの力になりたいと思う。登世は傾きかけた娼家を再生するために、新たな一歩を踏み出すのだった。−裏表紙より−


初めましての作家さんです。ずっと探していて見つからなかったので、ネットで購入しました。

夕霞の女」「玉簪の夢」「うまい話」「女誑し」の4編からなる連作短編集です。

物語の冒頭で、主人公・登世が嫁いでいた家から出される場面が描かれます。昔って本当に女性は辛い時代です・・。実家の仕送りが無くなったとたんに、嫁ぎ先からも追い出されるなんて。しかもそれに対して文句も言えず、黙って出ていくしかないなんて。

登世も悔しさを胸に抱えたまま家を出て、おじさんに連れていかれたのは、なんと娼家。まさか身売り!?と思ったら、そうではなくて下働きとして住むことになるのです。

女郎として客を取った方が儲かるのに・・と店主に言われるくらい美人ではあったようですが、おじさんが強く言い聞かせて、客はとらず、奥向きの仕事をすることになりました。

始めの方こそ馴染めず、不貞腐れた心中になっていたのですが、すぐに女郎たちとも溶け込もうと努力し、仕事もこなして前向きに生活するようになっていく登世。

女郎たちの身の上を思いやり、どうすれば客がつくかを考えて、化粧のやり方を教えていくことになります。登世の工夫のお陰で女郎たちにも客がつくようになり、店は繁盛していきます。

でも、女郎たちには色々な想いがあり、男性客との恋話や、お金儲けの話なども絡んで来て、それらの問題から何とか助けてあげようと登世は動きます。

店で働く定松やおじさんに力を借りながら。

定松もおじさんも、何やら裏に別の顔がありそうな雰囲気ですが、それぞれ男気が合ってなかなかいい人たちのようです。彼らの正体もシリーズが進むと明かされていくのでしょう。


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タグ:千野隆司

2017年04月12日

畠山健二「本所おけら長屋」

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 畠山健二 著
 「本所おけら長屋」
 (PHP文芸文庫)


本所亀沢町にある「おけら長屋」は騒動の宝庫だ。大家の徳兵衛、米屋奉公人の万造、左官の八五郎、後家女のお染―ひと癖ある住人が入り乱れて、毎日がお祭り騒ぎ。そんなおけら長屋に、わけあり浪人の島田鉄斎がやってきて・・。貧しいくせにお節介、そそっかしいけど情に厚い。そんな庶民が織りなす、江戸落語さながらの笑いと情緒にあふれる連作時代小説。−裏表紙より−


初めましての作家さんです。

だいくま」「かんおけ」「もののふ」「くものす」「おかぼれ」「はこいり」「ふんどし」の7編収録されています。


最初の話「だいくま」を読み始めたときは、なかなか面白いと思ったのですが、結末がどうにも気に入らず、次の話を読むかどうするか悩んでしまいました。

そんな気持ちのまま2話目「かんおけ」を読むと、最後まで面白くて、長屋の人たちのことも好きになっていって、気づけば続きを読み進めていました。

長屋の人は、みんな貧乏ですが、人情深くてお節介で、でも勘違いをしてしまうちょっとおバカな所もあるので、いつも大事件に発展させては大騒ぎしています。

そこが面白くて、読んでいる間ずっとにやけていたと思います。

時々、ほろり・・ともさせられて、なかなか忙しい内容でした。

特に「おかぼれ」は良かったな〜。「はこいり」も良い話でした。

すっかり長屋の人たちのファンになってしまったので、続きも探して読もうと思います。


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タグ:畠山健二

2016年08月16日

浅田次郎「一路 下」

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 浅田次郎 著
 「一路 下」
 (中公文庫)


中山道を江戸へ向かう蒔坂左京太夫一行は、次々と難題に見舞われる。中山道の難所、自然との闘い、行列の道中行き合い、御本陣差し合い、御殿様の発熱・・。さらに行列の中では御家乗っ取りの企てもめぐらされ―。到着が一日でも遅れることは御法度の参勤交代。果たして、一路は無事に江戸までの道中を導くことができるのか!−裏表紙より−


旅の後半には、前半以上に様々な困難が待ち受けていました。

今みたいに新幹線や飛行機、車などでピュッと行けないわけですから、普通に旅をするだけでも大変なことなのに、しきたりが多すぎて人数も多すぎて、本当に大変そうです。

他の大名と違って、なぜか蒔坂家の参勤は冬に行われることになっているので、雪山を超えるという命がけの道行。しかも大きな荷物も抱えていますし、何よりも腰に差している物がすでに重い・・。

「荷物より命が大事だ」と言われても、この時代には物によっては「命より大事」なわけで、現代の人よりかなり頑丈だとは思いますが大変さがわかります。

難所を超えたと思ったら、今度は殿様の体調が悪くなって、無理はできない状況。行列の人数が多すぎて簡単には宿も変えられないですし、何よりも江戸入りが遅れたら罰せられるとなれば、意地でも前に進まなければ! でも殿様の命も大事ですし、一路は苦悩することに。

こんなにたくさん事件が起きて、更に殿様の命を狙っている人たちまで中にいるとなれば、まだ若い一路にすべてを託して良いのか?と読んでいても不安になりました。

でも彼は周りにうまく助けられながら何とか一つ一つ乗り越えて前に進んでいきます。頼りなさも目立つ彼ですが、要所要所で締めるのはかっこよく見えました。

そして、何より素敵だったのは殿様。何だか最後は殿様にすべて美味しい所を持っていかれてしまった感じですが、それも良いのかも?と思えるくらい素敵な殿様でした。

他にも色々と意外な展開も待っていますが、そこは読んで確認して下さい。

最後まで笑ったり泣いたり忙しく、面白い物語でした。


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タグ:浅田次郎

2016年08月05日

浅田次郎「一路 上」

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 浅田次郎 著
 「一路 上」
 (中公文庫)


失火により父が不慮の死を遂げたため、江戸から西美濃・田名部郡に帰参した小野寺一路。齢十九にして初めて訪れた故郷では、小野寺家代々の御役目・参勤道中御供頭を仰せつかる。失火は大罪にして、家督相続は仮の沙汰。差配に不手際があれば、ただちに家名断絶と追いつめられる一路だったが、家伝の「行軍禄」を唯一の頼りに、いざ江戸見参の道中へ!−裏表紙より−


この作家さんは文章が堅苦しいイメージがあって、ちょっと敬遠していたのですが、家族から勧められたので読んでみました。


西美濃にある国から、参勤で江戸へ向かう道中の様子が描かれています。普通の参勤の行列でも大変なことなのに、この話では、小野寺一路という父親を亡くして跡目を継いだばかりの若干19歳の若者が仕切ることになるので更に大騒ぎ。

そのドタバタの様子が描かれています。一路の慌てぶりや、殿様のボケっぷりなどにニヤニヤさせられながら読んでいると、途中で意外と重い展開が待っていました。


一路の父親は、自宅で火事を出してしまい、焼死しました。この時代の失火は大罪で、本来ならお家取り潰しとなる所を、参勤交代の御供頭としてきちんと仕事をこなすことができたら御咎めなしにするということになります。

一路は剣も学問もできる期待の持てる男として登場するわけですが、まだ19歳で父親も若かったため、まだ跡目を継ぐとは思っていなかったため、父親から御供頭としての心得など一切聞かされていませんでした。

なのに父親の葬儀もままならない状態の中で、いきなり御供頭を命じられてしまいます。偶然見つけた家伝の「行軍禄」というのを見付けたため、それを頼りに古いしきたりに則ったやり方での参勤の行列を組むことにしました。


そして出てくる実は陰で別の画策がある・・という事実。誰が味方で誰が敵なのか、も一路にのしかかってきます。とにかく無事に、指定の日までに殿様を江戸へ! 苦難を乗り越えて前へ前へ進んでいく行列の様子には感動すらさせられました。


上巻ではまだまだ旅の途中。

一路の成長も楽しみですし、殿様が本当は名君なのか、やっぱりおバカ”なのか、陰謀は果たされるのか、などなど気になることがたくさんあるので、下巻も素早く読み進めたいと思います。


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タグ:浅田次郎

2016年05月27日

今井絵美子「さくら舞う 立場茶屋おりき」

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 今井絵美子 著
 「さくら舞う 立場茶屋おりき」
 (ハルキ文庫)


品川宿門前町にある立場茶屋おりきは、庶民的な茶屋と評判の料理を供する洒脱で乙粋な旅籠を兼ねている。二代目おりきは情に厚く鉄火肌の美人女将だ。理由ありの女性客が事件に巻き込まれる「さくら舞う」、武家を捨てて二代目女将になったおりきの過去が語られる「侘助」など、品川宿の四季の移ろいの中で一途に生きる男と女の切なく熱い想いを、気品あるリリシズムで描く時代小説の傑作、遂に登場。−裏表紙より−


初めましての作家さんです。

今まで、時代小説といえば関西弁の物ばかり読んでいたのか、この作品の江戸言葉が妙に引っかかって、読みにくい部分もありました。前後の文章で何となく意味がわかるようになって気にならなくなってからは、どんどん話に引き込まれていきました。


立場茶屋というのが最後までどんな店なのか想像できなかったのですが・・。始めは喫茶店的なところかな?と思っていたのに、食事も出しているので、定食屋っぽい店を思い浮かべながら読みました。

おりき”という茶屋の女将・おりきが主人公の物語で、彼女は2代目の女将。とはいえ、先代の娘というわけではなく、どうやら拾われた様子。でも今では立派な女将として茶屋を経営しています。彼女の過去も少しずつ明らかにされていきました。

過去に色々な経験をしているだけあって、お客さんのちょっとした変化や異常にも気づいて、持ち前の情の厚さで親身になって解決していきます。

お客さんだけではなく、従業員の生活にも気を配っていて、ある病に倒れた女中がいると、家の世話までしてしまうくらい。

これだけ親身になってくれたら、みんなおりきを慕うようになり、店の人はもちろん、町の人たちにも慕われ、頼りにされています。


まだ時々過去を思い出して暗くなるところもあるおりきですが、今後はもっとキリッと凛々しい女将になっていくのでしょう。

シリーズはかなり続いているようです。続きも早めに読むことにします。


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タグ:今井絵美子

2016年05月09日

田中啓文「鍋奉行犯科帳」

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 田中啓文 著
 「鍋奉行犯科帳」
 (集英社文庫)


大坂西町奉行所に型破りな奉行が赴任してきた。名は大邉久右衛門。大食漢で美食家で、酒は一斗を軽く干す。ついたあだ名が「大鍋食う衛門」。三度の御膳が最優先で、やる気なしの奉行に、与力や同心たちはてんてこ舞い。ところが事件が起こるや、意外なヒラメキを見せたりする。ズボラなのか有能なのか、果たしてその裁きは!? 食欲をかきたてる、食いだおれ時代小説。−裏表紙より−


「笑酔亭梅寿謎解噺」シリーズで気に入った作家さんです。謎解噺シリーズも途中までしか読んでいないのですが、こちらも気になってしまい手を出してしまいました。

「犯科帳」という題名にふさわしく、いきなり不穏な空気の漂う場面から始まります。この作家さんでこの題名にしては意外としっかり事件が始まるんだ!と思ったら、次の場面では何とものんびりした武家の朝の様子が描かれます。

ここに出てくるのが同心・村越勇太郎。頼りないタイプの人物みたいで、まじめだけが取り柄という感じ。彼の成長物語が始まるわけだ、と思ったら今度はいよいよ鍋奉行さんの登場!

表紙の絵の通りの雰囲気を簡単に思い浮かべられる描写が次々と。本当に奉行なのか!?と呆れる言動の数々。役宅内で寝転んだまま与力や同心の報告を聞くだなんてありえません。

でも妙に憎めない人なんです。美味しそうな料理を語るときの熱い感じとか、事件に対して意外と鋭い観察眼を持っていて部下にきちんと(きちんとではないか?)指図して解決していく手腕に惚れてしまいました。

まあ、身近にいてほしくはないですし、上司だったら絶対に嫌ですけど、読み物の登場人物として惚れました。


振り回される同心・勇太郎も、頼りないばかりではない面が色々と描かれてきて、“頼りない奴”というイメージから“優しくて良い人”というイメージに変わって、彼にも惚れました。

与力や使用人にも魅力的な人がたくさんいて、更には美味しそうな料理もたくさん出てきて、最後まで楽しく読めました。続きも楽しみです。


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タグ:田中啓文

2016年02月23日

岡本さとる「居酒屋お夏」

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 岡本さとる 著
 「居酒屋お夏」
 (幻冬舎時代小説文庫)


目黒不動で居酒屋を営むお夏。化粧っ気はなく毒舌で、くそ婆ァと煙たがられているが、懐かしい味のする料理は評判だ。ある日、客の一人だった遊女が殺され、お夏は静かな怒りに駆られる。実は彼女には、妖艶な美女に変貌し、夜の街に情けの花を咲かすもう一つの顔があった―。孤独を抱えた人々とお夏との交流が胸に響く人情小説シリーズ第一弾。−裏表紙より−


けちな飯」「おちゃけ」「朝粥」「二人で二合」の4話の連作短編集です。

初めましての作家さんです。時代小説を久々に読みたくなっていたので読んでみました。時代小説ではありますが、武士の話ではなく、題名の通り居酒屋を営むお夏というおばあさん(とはいっても、きっと今の私より若いのでしょう・・)が主人公の話です。

居酒屋にやってくるお客が巻き込まれた事件をお夏がさらっと解決する、痛快な物語。人情も絡んでほろりともさせられる、なかなか面白い話でした。

主人公のお夏が良い味を出しています。「くそ婆ァ」なんてひどい呼ばれ方をするような、毒舌で客を客とも思わないような女性ですが、実は人情に厚く、人知れず助け出してくれます。口では「知ったことか」とか「巻き込まないでくれ」とか言っているのですが、放ってはおけない性格で、料理人の清次と共にさり気なく正体を明かさずに助けるのです。

お夏という人もかなり謎な女性ですが、料理人の清次も謎な人で、癖の強いお夏と共に働けるというだけでもすごい人ですが、言葉や態度からきっと今まで色んな修羅場を潜り抜けて来たんだろうと思えます。底知れない深い懐を持った男性です。

彼の過去は今後少しは明かされるのかな??お夏共々気になる存在です。


居酒屋にやってくる客も個性的。お夏と対等に言い合えるのを自慢にしている親分もいれば、良い育ちをした女性がお夏を慕って来たり、次はどんな客がどんな事件を巻き起こすのか?というのも楽しみになりました。

4編、どれも面白かったですが、特に「二人で二合」が気に入りました。遊女と大道芸の男性との関係がほのぼのとしていて優しい気持ちにもなれました。事件は陰湿で最低な物なのですが。


このシリーズはたくさん出ているようなので、次々読み進めるつもりです。


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タグ:岡本さとる

2016年01月12日

辻堂魁「風の市兵衛」

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 辻堂魁 著
 「風の市兵衛」
 (祥伝社文庫)


柳原堤下で、武家の心中死体が発見された。旗本にあるまじき不祥事に、遺された妻と幼い息子は窮地に陥る。そこにさすらいの渡り用人唐木市兵衛が雇われた。算盤を片手に家財を調べる飄々とした武士に彼らは不振を抱くが、次第に魅了される。やがて新たな借財が判明するや、市兵衛に不穏な影が迫る。心中に隠されていた奸計とは? "風の剣”を揮う市兵衛に瞠目!−裏表紙より−

初めましての作家さんです。

ネットで面白いと評判だったので、気になっていました。久しぶりに、時代小説らしい話を読んだ気がします。良い作家さんに出会えました。


主人公の唐木市兵衛は“そろばん侍”という珍しい武士で、そろばんを武器に勤め先の家計をやりくりします。こんな紹介の仕方をすると、腰にさした剣も重そうに思えるようなナヨナヨした武士を思い浮かべそうですが、表紙の絵を見ればわかるように、剣の腕も確かな武士です。

「風の市兵衛」という題名でもわかると思いますが、風の剣と呼ばれる剣術をふるいます。しかもかなりの腕前で、彼が雇われた旗本を助けるために剣をふるう様子はとてもかっこよかったです。風が吹くような自然ででも鋭い剣だそうで、想像しただけでゾクッとします。


物語の冒頭で、まず旗本であり妻子もある武士と、夫のいる武家の妻との心中死体が発見されます。本来なら旗本は取り潰しになる所が、それまでの勤め方など評判の良い人だったこともあって、密かに息子に家督が譲られました。とはいえ、まだ8歳という幼い息子で、まだまだお城にあがるわけにはいかないため、収入はほぼありません。

そこで市兵衛が雇われたわけですが、彼の調べで、借金があること、これまでにあまりにも蓄えがされてきていないことがわかり、それを詳しく探っていくうちに、亡き主人の心中事件の謎が浮かび上がってきました。

ほぼ面識がないと思われる2人がなぜ心中などしたのか、そして何に使って借金ができたのか。調査する中で次々と浮かび上がる怪しい影・・。


彼の調査が進む度に、謎が深まって行って、早く真相が知りたくて次々と読み進めてしまいました。

痛ましい事件ではありますが、遺された息子の姿に救われた気がしました。


市兵衛のシリーズはたくさん出版されています。次も早く買って読もうと思います。


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タグ:辻堂魁

2015年11月17日

葉室麟「風かおる」

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 葉室麟 著
 「風かおる」
 (幻冬舎出版)


父・佐十郎の元に届いた果たし状。鍼灸医の菜摘は、重病の身で果し合いに出かけようとする佐十郎を止めようと、弟・誠之助と男装の美少女・千沙と共に差出人の正体を探りはじめる。調べを進めるうち、かつて佐十郎と出世を競い、今や藩の重鎮となった三人の男たちに辿りつくが・・・・・・。なぜ養父は、妻敵討ちにでなければならなかったのか。明かされる、養父の知られざる過去とは? 人が生きることの哀歓を描く、胸を衝く傑作時代小説。−出版社HPより−

初めましての作家さんです。時代小説を久しぶりに読んでみたくて、新しい作家さんにも出会いたくて、、「本が好き」で献本申し込みしました。

帯の文章を読むと、恋愛物っぽかったので心配でしたが、読み進めるとミステリー色が強くて安心しました。


鍼灸医をしている菜摘が治療に呼ばれて行った先に、十年会っていなかった養父の姿がありました。養父は「妻敵討ち」の旅をして帰ってきた所でした。「妻敵討ち」とは、妻と駆け落ちした相手を討つことです。親や子の敵討ちはよく聞きますが、妻でもあるんですね。この時代ならではです。

不治の病で、手の施しようもない状態になっている養父が「妻敵討ちは謀られたことだった」と言い、敵討ちをさせた相手と果し合いをすることになっていると聞き、菜摘は何とかして止めようと調査を始めます。

部屋住みで暇な弟と彼に想いを寄せている千沙に頼んで、何とか事情を知ろうと聞き込みをしてもらうのですが、なかなか真実が見えてきません。

この2人の調査は読んでいてももどかしくて、チラッと話を聞いて、改めて菜摘が同じ人に話を聞く、という何とも手間のかかる状態。そこまでしても、結局3人にはほとんど何もわからず。残りページが少なくなった頃、やっと家に戻ってきた菜摘の夫・亮がほぼすべてを解き明かします。サッサと帰ってきたらいいのに!と思ってしまいました。確かに出張先での調査は必要だったんですけどね・・。


菜摘の弟と千沙のことなど、事件と関係ない内容も多く、もっとすっきり短く濃い内容にもできたのではないかな?と思ってしまいました。

また、1人犬死としか思えない死に方をした人物もいて、彼の存在は哀れでした・・。何も殺さなくても・・。まあこの物語はほぼすべてがそういう気持ちにさせられうのですが。

この時代の恋愛はどうしても、当人同士の望みどおりにはならないので、悲恋が多いですね。ある意味一途だった、キレイな恋だったと言えなくもないですが、やり方が納得できませんでした。誰か1人が真実を話していれば、何か一つきっかけさえあれば、違う結末があっただろうと思うと辛かったです。


初めて読んだ作家さんでしたが、文章は読みやすかったです。時代小説らしくない気もしましたが。軽く読めるので、時代小説に慣れない人にも読みやすいかもしれません。


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タグ:葉室麟

2015年06月22日

田牧大和「緋色からくり 女錠前師謎とき帖1」

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  田牧大和 著
 「緋色からくり 女錠前師謎とき帖<一>」
 (新潮文庫)


姉と慕ったお志麻が何者かに惨殺されてから四年。「どんな錠前も開ける」と評判高い美貌の天才錠前師・お緋名は、愛猫の大福と暮らしていた。「用心棒になりたい」とある日突然、榎康三郎という侍が現れる。その直後、緋名は賊に襲撃されるが、康三郎は取り逃がしてしまう。奴らが血眼で探すものは? 康三郎は敵か味方か? そしてお志麻殺しの真相は―。謎とき帖シリーズ第一弾。−裏表紙より−

初めましての作家さんです。

いきなり不穏な空気で始まり、最後まで読めるのか心配になりましたが、それは回想シーンですぐに平穏な雰囲気に変わりました。

登場人物たちのキャラクターがわかるまでは、何だか妙に暗い雰囲気に感じられたのですが、殺されたお志麻の忘れ形見である孝助や夫の甚八の優しさ、人情深さ、かわいさにすっかり魅了されました。

何よりも気に入ったのは、緋名の愛猫・大福。孝助に拾われ、彼にかなりなついているのに、緋名の家で住むことを選んだという不思議な猫。とても賢くて、大福が気に入らない人間は嫌な奴とわかるくらいです。


連作短編形式になっていて、1話目は緋名がからくりの錠前を開けに行くという錠前師らしい仕事の話だったのですが、2話目以降は何だか妙な展開に。亡き志麻がなぜ殺害されたのか?が大きなテーマになっているので、それを解決していくことをメインにして、話が進んでいきます。そして、なぜか錠前師としての仕事がほとんど無い・・。

一応、仕事としてやってはいるのですが、緋名が錠前を開けに行った先で事件に巻き込まれる的な話を想像していたので、かなり違う展開になりました。まあ、最後は錠前師としての腕が必要になってくるのですが。

とりあえず、志麻の事件は最後に解決してしまうので、これで終了。・・かと思ったのですが、シリーズ化しているようで。

どういう話になるのか、私のお気に入りたちは登場するのか、気になるのでぜひ続きも読みたいと思います。


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タグ:田牧大和

2014年05月27日

山本一力「ほかげ橋夕景」

ほかげ橋夕景

 山本一力 著
 「ほかげ橋夕景」
 (文春文庫)


娘の祝言が決まった日から急に態度が冷たくなった父親の心情が胸に迫る表題作ほか、他人の物を盗った息子に右往左往する両親を描く「泣き笑い」、晩年の清水の次郎長が小気味よい「言えねえずら」、土佐の長宗我部家に伝わる文書に秘められた一族の尊い使命「銀子三枚」など、とびっきりの人情話8編。−裏表紙より−


「泣き笑い」「湯呑み千両」「言えねえずら」「不意蛾朗」「藍染めの」「お燈まつり」「銀子三枚」「ほかげ橋夕景」の8編が収録されています。

この作家さんの作品を読むのは2作目ですが、前作の長編の方が合う気がしました。私自身は短編も好きなんですけど、この作品集は突然話が終わってしまう物が多いように感じたんです。

何が言いたかったのかわからない作品もありました。私の読解力が低いせいなのでしょうが・・。

でも、面白い作品ももちろんありました。

表題作が一番好きでしたが、他にも「不意蛾朗」「藍染めの」は結構気に入りました。

表題作は父親の娘を想う心が痛々しくて、不器用で、読み終わったときほわっと温かい気持ちになれました。


不意蛾朗」は、妙に長く感じて、飽きそうになった部分もあったのですが、自分の仕事に誇りを持って働く姿がかっこよく、最後の行動にも感動しました。ちょっと突然すぎる感じはありましたが。


藍染めの」は、職人の不器用さと危うさが細かく描かれていて、読みながらハラハラする部分が多く感情移入してしまいました。これは将来の目標が出来て、明るい終わり方をしているのが良かったです。


今度はまた長編を読んでみようと思います。


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タグ:山本一力

2014年02月12日

山本一力「たまゆらに」

たまゆらに

 山本一力 著
 「たまゆらに」
 (文春文庫)


若い娘ながら青菜の目利きに長けた棒手振りの朋乃。ある朝仕入れに向かう橋の上で、大金の入った財布を拾う。商いに障ると知りながらも、落とし主を救うため自身番に届け出たのだが―欲深さ、狡猾な保身に満ちた浮世を、正直に誇り高く生きることの価値を描いて爽やかな感動を呼ぶ、極上の人情時代小説。−裏表紙より−


初めましての作家さんです。

久しぶりの時代小説でした。やっぱり良いですね。

主人公・朋乃の細かい説明もないままに話が進んで行くので、始めは戸惑ってしまったのですが、なぜ説明が無かったのかがわかってからはどんどん引き込まれていきました。


朋乃は、青菜売りをしている娘で、女性では珍しく棒手振りをしています。でも、目利きの良さは評判になっていて、なじみ客も多いようです。

そんな彼女が仕入れに向かう途中で財布を拾ってしまいます。愛犬・ごんが見つけました。“仕方なく”番屋へ届けることにした朋乃。・・・なぜ“仕方なく”なのか?というと、この時代、財布を拾って届けると、番屋で色々と細かい事情を聞かれることになり、商売に響くので、普通は届けずに放っておくか、そのまま懐に入れてしまうようです。

善意のつもりでも、色々とややこしいんですね。

でも、朋乃は愛犬が気づいたせいもあり、正直に届けることに。思った通り、自身番では根掘り葉掘り聞かれてしまいます。更に、中身が50両という大金だったせいで、盗人扱いされるほど。

中に屋号の書いた紙が入れてあったため、その店に届けることになりました。その店は実は朋乃と因縁のある店でした。その事情も説明しなければならず、取り調べは長時間に及びました。この部分で、朋乃の生い立ちが明かされていきます。この時代ならではの悩みというか苦労を重ねて育ってきた女性だったことがわかります。


大金を届けられた店では、喜んでもらえるか?と思いきや、店の手代がごまかしたお金だったので、あえて知らないと言わずにいられません。

十手持ちから責められても、店の主人は「知らない」と言い張り、その攻防は何度も繰り返されました。この部分がやたらと長々書かれていて、そろそろ退屈しそうになったとき、朋乃が動きます。

その鮮やかな口調と解決法に、読んでいてスッキリさせられました。ここまで読んできて良かったと思えました。


話の中で、何度もお茶を淹れる場面が出てきます。このタイミングではどんなお茶を出すのか、どのくらいの温度で出すのか、など色々な心得が書かれていました。勉強になるのと同時に、とても喉が渇く気がしました。美味しい緑茶が飲みたくなります。


時代小説ならではの面白さがたくさん詰まっている、読み応えのある作品でした。とても読みやすかったので、他の作品も読んでみようと思います。


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タグ:山本一力

2013年06月17日

木内昇「茗荷谷の猫」

茗荷谷の猫

 木内昇 著
 「茗荷谷の猫」
 (文春文庫)


茗荷谷の一軒家で絵を描きあぐねる文枝。庭の物置には猫の親子が棲みついた。摩訶不思議な表題作はじめ、染井吉野を造った植木職人の悲話「染井の桜」、世にも稀なる効能を持つ黒焼を生み出さんとする若者の呻吟「黒焼道話」など、幕末から昭和にかけ、各々の生を燃焼させた名もなき人々の痕跡を掬う名篇9作。−裏表紙より−


9つの短編で、それぞれが独立した話になっているのですが、少しずつ細かい所で繋がっています。その繋がりがとても細かくて、じっくり読まないと見逃しそうな感じです。

その分、気づくと嬉しいです。「お〜、ここに出てきた!」って感動します。

時間も1話目から少しずつ流れています。時代小説から現代小説へ移行するのが面白いです。

ただ、1話ずつがあまりハッピーエンドではないので、妙に暗い雰囲気がずっと漂います。はっきりした結末が描かれていない物も多いです。きちんと最後まで書いてほしいと思う人には向かない作品かもしれません。

私もあまり得意ではないのですが、この本はそれ以外の不思議な魅力がありました。

ただ単調に一般人の生活が描かれていて、特に大きな事件が起きるわけでもなく、本当に淡々と流れていく話なのですが、人生の奥深さというか、難しさが感じられました。

不器用な人の生き方が痛々しかったですし、もっと楽な生き方を選べたら違った人生だっただろう・・と思うと、悲しくなる話も。

全体的に重かったので、しばらくは軽めの話が読みたいと思いました。



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タグ:木内昇

2013年05月07日

木内昇「浮世女房洒落日記」

浮世女房洒落日記

 木内昇 著
 「浮世女房洒落日記」
 (中公文庫)


お江戸は神田の小間物屋、女房・お葛は二十七。お気楽亭主に愛想つかし、家計はいつも火の車。それでも風物たのしんで、美顔の探求余念なし。ひとの恋路にゃやきもきし、今日も泣いたり笑ったり。あっけらかんと可笑しくて、しみじみ愛しい、市井の女房が本音でつづる日々の記録。−裏表紙より−


時代小説のはずが、いきなり始まったのはファンタジー風の話。ちょっと混乱しながら読み進めると、その部分は「この日記を公開することにした経緯」が書かれているのだということがわかりました。・・が、最後まで読んでも必要かな?と疑問に感じました。

日記の部分が始まると、読みやすくなりました。


お葛という27歳の女性が江戸時代に書いている日記で、特別大きな問題が起きるわけでも、劇的な人生があるわけでもありません。それでも、彼女の文章が面白く、普通の日常が書かれているので共感できる部分も多くて、最後まで楽しめました。

小間物屋を営んでいるお葛には、頼りがいが無く働きも悪い亭主と、落ち着きのない息子とおとなしい娘がいます。日記の内容はほとんど、亭主に対する愚痴です。働かない亭主のせいで家計が火の車だとか、亭主の考え方や行動をバカにしたり・・。

時代が変わっても夫婦の悩みは変わらないんだな・・と妙に感心しました。共感できること多いと思います。


もう一人、清さんという小間物屋を手伝う人が同居していて、彼の恋路にもお葛は悩みます。

彼女の良い所は、悩みが長く続かなくて、いつも明るい所。甘いものを食べたり、初物を食べたり、花見なんかをしているうちにあっさりと忘れてしまえます。

火の車と言いながらもサラッと買い物をしたり、寄席や芝居を見に行ったりするのも笑えます。

「痩せなきゃ」と言いながら甘い物を食べてしまう所も、今の人と同じで、笑ってしまいました。

何だかんだ言いつつ、旦那さんや子どもたちのことが大好きで、今の生活に満足し、実は幸せなんだろうということが伝わってきて、読んでいる私も幸せな気持ちになりました。


ちょっと重い話を読んだ後などにお勧めです。



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タグ:木内昇

2013年04月04日

岡篠名桜「浪花ふらふら謎草紙」

浪花ふらふら 謎草紙

 岡篠名桜 著
 「浪花ふらふら謎草紙」
 (集英社文庫)


商人の町として賑わう大坂の旅籠「さと屋」の看板娘・花歩は十七歳。実は幼い頃、さと屋に置き去りにされた娘だ。父親らしき男が残した数枚の風景画に描かれた景色を探して町のあちこちを歩くうち、すっかり町に詳しくなり、町の人たちにも何かと親切にしてもらえるようになった。それを生かして、花歩は大坂の名所案内を始めることにするのだが・・・。浪花の人情溢れる書き下ろし時代小説。
−裏表紙より−


初めましての作家さんです。読書メーターで紹介されていて面白そうだったので読むことにしました。

始めはどうも文章が読みにくくて、自分には合わないかも・・と心配になりました。何とか読み進めるうちに、登場人物たちのキャラクターが気に入って、気づけば入り込んでいました。


舞台は大坂の町。「さと屋」という旅籠で暮らす花歩という娘が主人公です。17歳というと、そろそろお年頃なのですが、彼女はまだまだ幼い雰囲気を残しています。

実は幼い頃、さと屋の泊り客だった父親に置き去りにされていました。そのままさと屋の主人夫婦に育てられた彼女は、父親が残していった風景画を持ち、どこの風景が描かれたのかを探すため、町中をふらふらしています。そこで付けられたあだ名は「ふらふら花歩」。

自分の両親について何も知らないことに対し、不安というか落ち着かない気持ちを持っている花歩は、せめて父親の見たであろう景色を同じように見てみたいと考えていました。

ふらふらしている彼女を、町の人たちは温かい目で見守っています。気軽に声を掛けて面倒を見る人たち。自分が見守られている、この町に育てられている、ということに気付いた花歩は、町に恩返しをしたいと考えるようになりました。

そこで始めたのが「名所案内」。自分で作った地図を片手に、宿泊客たちに名所を案内して回り、美味しい料理やお土産物なども紹介するようになりました。今で言う「ツアーガイド」みたいなものですね。


そんな彼女を中心に、大坂の町で起こる様々な事件や騒動などが描かれています。事件が起きると登場するのが千代太郎という、元は商人の息子だった奉行所の同心です。

花歩は幼馴染だった彼のことを「千代ちゃん」と呼び、その度に険しい表情で睨まれるのですが、彼女のお節介のお陰で解決することも多いため、うまく利用することもあるようです。

花歩はどうやら千代太郎に片思いしている様子。二人の関係もどうなるのか気になりますし、まだまだ話は書けそうな雰囲気。続きも出てほしいです。


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タグ:岡篠名桜