2012年12月03日

愛川晶「うまや怪談 神田紅梅亭寄席物帳」

うまや怪談

 愛川晶 著
 「うまや怪談 神田紅梅亭寄席物帳」
 (創元推理文庫)


福の助は二つ目ながら、若手真打ちが主に出演する落語会にお呼びがかかり、予告した演目を変えられないこの会で『厩火事』をかけることに。一方、亮子が勤める学校で妙ちきりんな事件が発生。さらに落語会当日に亮子の父から違う噺を演ってくれと頼まれて・・。果たして福の助はこの事態を切り抜け、事件を解決できるのか?落語を演じて謎を解く! 本格落語ミステリ集、第三弾。


ねずみととらとねこ」「うまや怪談」「宮戸川四丁目」の3編が収録されています。

さすがに3作目ともなると、なかなか高度になります・・。私の落語の知識では、わからない部分も多いです。でも、きちんと説明がしてありますし、謎解きの部分ではスッキリできるようになっています。

出てくる落語は、ぼんやりとあらすじは知っている物もありました。最後の落語は知りませんでしたが、どれも聞いてみたいと思う話でした。なかなか落語を聞きに行く機会はありませんが・・。


今回の福の助は、出来によっては真打になれるかもしれないという競演会に出ることになりました。ただ、嫉妬した兄弟子から嫌がらせを受けてしまいます。彼がその嫌がらせというか策略から逃れた様子は、とても頼もしく、いつ真打になってもおかしくないなと思えるものでした。

福の助の妻・亮子の家族や、同僚たちにも色々な事件が起こり、その謎解きを福の助がすることもありました。今までなら馬春師匠に謎解きしてもらっていたのに出てこなくて残念に思っていると、同じように残念に思っていたらしい馬春師匠から「出入り禁止」を言い渡されてしまいます。

何とも子どもっぽい行動をする師匠ですが、どうも憎めないんですよね。

まあ、今回はちょっと嫌いになる出来事が起きましたけど・・。


あとがきによると、次作が第一期の最終巻だとか。福の助の成長がますます楽しみですし、師匠もどうやら復帰するらしいので、その活躍が楽しみです。


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タグ:愛川晶

2012年11月29日

吉永南央「その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ」

その日まで

 吉永南央 著
 「その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ」
 (文春文庫)


コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の近くに、ライバル店「つづら」が開店した。つづらは元和菓子屋だったが、近隣では経営難のオーナーから詐欺まがいの手口で土地家屋を買い叩く業者グループがいるという噂がある。小蔵屋を営む気丈なおばあちゃん・杉浦草は、背景を調べ始めるが・・・。人気シリーズ第2弾。−背表紙より−


第1弾と同じように、元気に動き回るお草さん。ただ、今回は事件自体が結構ハードな内容なので、前作のように鮮やかに解決!というわけにはいきませんでした。

短編ではありますが、全て同じ事件に関与していることばかりになっています。


今回は、近所にライバル店が出来たことでお草さんの気持ちが揺れてしまうことに・・。ライバル店なんか怖くないはずなのに、どうしても心が乱れる・・そんな様子が何度も出てきて、少し心配になることもありました。

でも、やはり色々な経験を積んできて今のお草さんがあるわけで、問題を抱えた人に寄り添ったり突き放したりしながら、いい方向へ導いていきます。

従業員の久実さんも相変わらず元気で明るく、正義感が強く、お草さんを助けて働いています。そんな彼女に今回は少し変化もありました。


お草さんのパワフルな言動にちょっと笑わせられながら、時にはほろりとさせられたりもあり、とても楽しく読み切ることができました。


今回、お草さんとは違う人なのですがとても印象に残った言葉があったので書き出しておきます。

自閉症の子どもとあそぶボランティアをしていた女子大生にお草さんが「なぜボランティアをしようと思ったのか?」と質問したときに返ってきた答えです。
「自分のためですよ。余ってる時間と気持ちを、誰かのために使いたかったんです。つまり、したいことをしてる。だから、自分のため」
・・・なるほど、そう考えれば結果がすぐに出なくても、前向きにいられるかもしれないな、と感心しました。


続きもあるそうなので、また楽しみに文庫化を待つことにします。


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タグ:吉永南央

2012年10月22日

岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿」

珈琲店タレーラン

 岡崎琢磨 著
 「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」
 (宝島社文庫)


京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。恋人と喧嘩した主人公は、偶然に導かれて入ったこの店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタ・切間美星だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かしていく。だが美星には、秘められた過去があり−。軽妙な会話とキャラが炸裂する鮮烈なデビュー作。−裏表紙より−


コーヒーが大好きで、自分好みのおいしいコーヒーを出してくれるような店をいつか見つけたいと思っている私としては、バリスタがいる珈琲店の話を読まずにはいられません。しかも、謎解きまであるなんて!

主人公・アオヤマさんが理想のコーヒーを出してくれる店「タレーラン」と出会ったきっかけや、女性バリスタ・美星との出会い方が面白くて、出だしからグッと心をつかまれた気がしました。

バリスタが日常のちょっとした謎を解き明かすときに豆を挽く所や、すごく些細な出来事から解き明かす様子に感動してしまい、読むスピードがどんどん上がりました。

ただ、徐々にその謎解きが小難しくなっていき、私の理解力が足りないせいで、謎が解けたと聞かされても意味がわからず、スッキリできなくなっていったんですよね。誰が誰だかわからなくなりましたし・・。

更に、恋愛的なものまで絡んできて、私の苦手分野へと進んでいったのは残念でした。時々出てくるダジャレもついていけませんでしたたらーっ(汗)

京都の話なのですが、京都に土地勘がある人にはわかっても、あまり知らないとわかりにくい部分もありましたし、何よりコーヒーについてもっと詳しい描写があるかな?と期待していたのに、あまり出てこなかったのも残念でした。

珈琲店だからこそ作れた話・・という感じがしなかったんですよね。

もっと、理解力のある人には楽しめるのかもしれませんが、私には小難しすぎました。


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タグ:岡崎琢磨

2012年10月13日

横関大「再会」

初めましての作家さんです。

再会

 横関大 著
 「再会」
 (講談社文庫)


小学校卒業の直前、悲しい記憶とともに拳銃をタイムカプセルに封じ込めた幼なじみ四人組。23年後、各々の道を歩んでいた彼らはある殺人事件をきっかけに再会する。わかっていることは一つだけ。四人の中に、拳銃を掘り出した人間がいる。繋がった過去と現在の事件の真相とは。<第56回江戸川乱歩賞受賞作>−裏表紙より−


淳一、圭介、万季子、直人という仲良し4人組が、大人になったときの話が書かれているわけですが、この4人には何か大きな秘密が過去にありそうな雰囲気。

かなり仲が良かったようなのに、突然ほぼ連絡さえ取らなくなった彼らですが、23年経って一件の殺人事件をきっかけにまた集結することになりました。


万季子は母親になっています。この話は彼女が息子のことでスーパーの店主に呼び出された所から始まります。この店主は直人の兄なのですが、かなり評判の悪い人で、万季子とは過去にも因縁がある様子です。今回もゆすられる立場になってしまいました。

圭介は万季子の元旦那。息子の父親でもある彼は、万季子が巻き込まれた事件を解決するため一緒に交渉に向かいます。

直人は万季子と連絡を取ることもあったようで、今でも彼女を守るためなら何でもしそうです。

淳一は警察官になっています。他の誰とも連絡を取っていなかった彼は、仲間の現状も全く知らない状態。でも仲間を思う気持ちは強くて、警察官という立場と仲間を守りたい気持ちの狭間で揺れています。


容疑者としてはこの4人が最も近い感じで、この中の誰が殺人を犯したのか?彼らは過去にどんな秘密を持っているのか?を謎解きしていくように話は進みます。

事件を捜査するのは南良という刑事。一見うだつの上がらないような刑事ですが、なかなかのキレ者のようで、淳一を含めた4人の過去についてかなり興味を示して捜査を進めていきます。

その南良が出すヒントや、4人が暴露する心情なんかが少しずつ読者に出されていくわけですが、単純な私はその一つ一つを真に受けて、推理が二転三転してしまいました。

さすがに最後の方では犯人に気づいたのですが、それまでのどんでん返しはなかなか心地よかったですし、どんな結末を迎えるのか気になってほぼ一気読みになりました。


彼ら4人が抱えた過去の苦悩はかなり重たくて、23年間どんな想いで生きて来たのかと考えると辛くてたまりません。でも、全てが明らかになってこれからは前を向いて歩いていけそうなので、それは救いになりました。

これがデビュー作ということで、確かに若干都合よすぎな展開もありましたが、読みやすかったですし面白かったので、今後も作品を読んで行きたいと思いました。

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2012年10月10日

宮部みゆき「パーフェクトブルー」

パーフェクトブルー

 宮部みゆき 著
 「パーフェクトブルー」
 (創元推理文庫)


高校野球界のスーパースターが全身にガソリンをかけられ、焼き殺されるというショッキングな事件が起こった。俺−元警察犬のマサは、現在の飼い主、蓮見探偵事務所の調査員、加代子と共に落ちこぼれの少年、諸岡進也を探し当て、自宅に連れ帰る途中、その現場に遭遇する。犬の一人称という斬新なスタイルで、社会的なテーマを描く、爽快な読後感の長編デビュー作、怒涛の文庫版。−裏表紙より−


この作家さんは合う、合わないがはっきりしているので読むのを躊躇してしまうのですが、ドラマ化に合わせて本屋さんで平積みされるようになり、気になってしまいました。

犬が主人公!しかも一人称で語る・・だなんて、面白そうじゃないですか!ぴかぴか(新しい)

ということで、読んでみました。


諸岡進也という高校生が家出しているので連れて帰ってほしい・・という依頼を受けて、蓮見探偵事務所の加代子は犬のマサと共に少年を探しに行きました。

その帰途、進也の兄である高校野球界のスター選手・克彦が焼き殺される現場に遭遇してしまいました。優等生の兄が殺害されたことを知った母親は、精神を壊してしまい、弟である進也にとんでもない言葉を浴びせかけてしまいます。

進也の境遇に同情した加代子と、探偵事務所の所長である加代子の父親は、彼をしばらく自宅に住まわせることにしました。

そして、彼と共に事件の調査を始めた加代子とマサ。次々と事件に纏わる謎が出てきて・・・。


これから推理して、どんどん謎を解明してマサも大活躍で「さすが元警察犬!」となると思ってワクワクしながら読みすすめたのですが、驚くような展開が待っていて、更には何とも後味の悪い結末バッド(下向き矢印)

ハッキリ言ってまだまだ彼らは謎の解明に近づいていなかったのに、黒幕たちが焦ってしまったせいで、自ら墓穴を掘ってしまったという感じでした。

確かにマサはがんばったし、かっこよかったけど、もう少し謎の解明の方でも活躍してくれたらよかったのに。

所長も良い味出していたんですけどね・・ちょっと残念でした。


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ドラマも一応見ました。設定が原作とかなり違って驚きました。ドラマにしようと思ったらここまで変化させないと無理なんでしょうね〜。

 
タグ:宮部みゆき

2012年09月29日

田中啓文「ハナシがはずむ!」

ハナシがはずむ

 田中啓文 著
 「ハナシがはずむ! 笑酔亭梅寿謎解噺3」
 (集英社文庫)


万年金欠状態の梅寿の個人事務所(プラムスター)に時代劇オーディションの話が舞い込んだ。一門をあげての参加の末に、合格したのは金髪トサカ頭の竜二。芝居の面白さにハマり込み、落語の修業も上の空。案じた梅寿は地方のボロ劇場に竜二を送り込むが、ここがまた曲者ばかりの芸人の巣。さらには東京VS大阪の襲名を賭けた世紀の対決が勃発して・・。ますます快調!青春落語ミステリ第三弾。−裏表紙より−


今回も驚くような行動を繰り返す梅寿師匠。私も慣れて来て、だんだん師匠のめちゃくちゃな行動に拍手したくなるくらい、彼の言動が楽しみになってきました。

でも、これが現実にすぐそばにいる人だったら絶対に1日ももちませんが・・。もし本当に書かれているくらいの暴力が振るわれているとしたら、竜二はもうすでに重傷、もしくはこの世にいないでしょうしね。


今回の竜二は、なんと役者の道と落語家の道、どちらにするか?で悩むことになります。女優にちょこっと褒められたくらいでその気になるんですから、何とも単純な奴です。

そんな程度で揺らぐわけですから、当然、相変わらず落語の面白さを理解していないまま。

・・ということは、落語の練習に身が入らない・・つまり、今も竜二の実力は未知数のまま。

一体彼はどうしたいのか?

単純な人ですから、ちょっとしたきっかけでやる気にはなるんでしょうけど、この先どんな落語家になっていくのか・・。


最後の話では、竜二が師匠のことをそんな風に見ていたんだ・・という感動の記述があって、ホロリとさせられました。竜二がいつか梅寿の名前を継いで、大活躍!なんてこともあり得るのかもしれないと思うと楽しみです。

でもまあ、そんな場面が来たら、そのときはこのシリーズは終わってしまうわけで、しばらくはこのままドタバタで行ってほしいと思います。


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タグ:田中啓文

2012年09月18日

天野頌子「陰陽屋の恋のろい」

陰陽屋 恋のろい

 天野頌子 著
 「よろず占い処 陰陽屋の恋のろい」
 (ポプラ文庫ピュアフル)


王子稲荷のふもとの商店街、ホストあがりのイケメン毒舌陰陽師が営む占いの店「陰陽屋」は今日も細々営業中。ある日かけこんできたのは、アルバイトの妖狐高校生瞬太のクラスメイト。文化祭の演劇でのヒロイン役を狙って争う女子二人からの依頼は、不穏な雰囲気で・・。呪詛や晴れ乞い、離婚の調停、素人手相占い指導まで、よろず占い処に依頼人の訪問は絶えず。瞬太の恋の行方、祥明対いわくつきの母との攻防戦も気になる、大好評シリーズ第三巻!−裏表紙より−


今回は、夏休み〜文化祭という学生にとっては楽しい時期の話です。

普段、昼間はほぼ寝っぱなしの瞬太ですから、夏休みは当然、補習授業を受けることになるわけですが。

文化祭の出し物も、その出し物での配役も話し合いの時間に爆睡していて知らない瞬太は、クラスの雰囲気が若干険悪になっていることも知りませんでした。

バイト先にヒロイン役を狙っている女子二人がやって来たのですが、その必死な雰囲気に圧倒されてしまいます。そしてようやく、自分のクラスや部活が何をするつもりなのか?に興味をもち、事情を知ります。クラスメートからも両親からも「女同士の争いには関わらない方が良い」と言われますが、人が良すぎる瞬太なので、なかなか放っておけません。

でもまあ、このシリーズらしく、あまり怖い展開にはならず、ほ〜のぼのした感じで解決するわけですが。


今回も瞬太のお仲間(出生の秘密?)探しと、祥明の母との対決、などなどバタバタした展開も待っているのですが、やはり全体的にのんびり、ゆっくりした雰囲気が漂っています。

瞬太と両親、クラスメートたちがのんびりしているからでしょう。

このままの雰囲気でのんびり話を進めて行ってほしいと思います。

瞬太の恋もほんの少〜し前進しましたし、その辺も気にしつつ待つことにします。


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タグ:天野頌子

2012年09月06日

中山七里「さよならドビュッシー前奏曲」

さよならドビュッシー前奏曲

 中山七里 著
 「さよならドビュッシー前奏曲 要介護探偵の事件簿」
 (宝島社文庫)


『さよならドビュッシー』の玄太郎おじいちゃんが主人公になって大活躍!脳梗塞で倒れ、「要介護」認定を受けたあとも車椅子で精力的に会社を切り盛りする玄太郎。ある日、彼の手掛けた物件から、死体が発見される。完全密室での殺人。警察が頼りにならないと感じた玄太郎は、介護者のみち子を巻き込んで犯人探しに乗り出す・・・「要介護探偵の冒険」など、5つの難事件に挑む連絡短編ミステリー。−裏表紙より−


題名からもわかるように「さよならドビュッシー」の前に起きた出来事が描かれた話です。主役だった少女たちが今回は脇役になり、少ししか登場しません。代わりに主役となったのは、車椅子に乗っている玄太郎おじいさんです。

脳梗塞で下半身が動かなくなり、介護を受けている玄太郎ですが、口はかなり達者で行動的なので、車椅子に乗って弱弱しい老人というイメージとはほど遠いタイプです。

“要介護探偵”という面白い名前が付いているので、どんな話の展開になるのか?と思いましたが、時々、車椅子だということを忘れるほどでした。

介護者のみち子さんが付き添って車椅子を押しているわけですが、みち子さんが呆れるほどの言動で犯人やどんな凶暴な相手にも立ち向かっていきます。

大会社の社長ということもあり、人を使うことや説得することがとてもうまくて、読んでいても感心する言葉がたくさんありました。ただ、口調がキツイというか、汚い言葉も使うのでもし目の前で自分に向かって言われていたら素直に聞ける気がしませんけど・・。


最後の話では「さよならドビュッシー」に出て来た岬先生も登場し、先に「さよならドビュッシー」を読んだ方ならホロリとさせられる文章もあり、何とも寂しい気持ちになりました。

全くタイプの違うこの2作品。私はこの「前奏曲」の方が好きでしたが、どちらが好みか?は結構分かれそうな感じです。


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タグ:中山七里

2012年08月24日

楡周平「Cの福音」

Cの福音

 楡周平 著
 「Cの福音」
 (角川文庫)


父の転勤に伴い渡米し、フィラデルフィアのミリタリースクールで聡明な頭脳と強靭な肉体を造り上げた朝倉恭介。その彼を悲劇が見舞う。航空機事故で両親が他界したのだ。さらに正当防衛で暴漢二人を殺害。以来、恭介は、全身全霊を賭して「悪」の世界で生きていくことを決意する。彼が創出したのは、コンピューター・ネットワークを駆使したコカイン密輸の完璧なシステムだった。「朝倉恭介VS川瀬雅彦」シリーズ第1弾!−裏表紙より−


シリーズ物だったんだ・・と驚きつつ読み始めました。ページをめくったらいきなりアメリカの話でまた驚かされました。日本人が書く外国の話って苦手なんだよな・・と思っていたのですが、しばらくしたら何とか日本に戻ってくれたのでホッとしました。

あらすじにあるようにこれは「朝倉恭介VS川瀬雅彦」シリーズの1作目なのですが、いつまでたっても川瀬という人が出てこなくて変に焦ってしまいました。結局、出ないまま終わってしまい、解説を読んでやっと納得しました。どうやら1作ずつ交互に主役が変わるらしく、2作目は川瀬雅彦が主役になっていて、最終巻で直接対決するとか。対決ということは、片方が警察関係とか探偵とかかと思っていたのに、川瀬は報道カメラマン・・??う〜ん、どんな対決をするのか想像がつきません。


内容は思いっきりハードボイルドです。主人公の朝倉恭介はすごい悪人で、良い人の部分が皆無です。題名の「C」はコカインのことで、コカインをアメリカからどのようにして密輸して、どのようなルートで売りさばくか?という説明にページ数が割かれています。

コカインに興味が無い私には退屈に思える部分が多かったです。

ハードボイルドというのは、主人公やその周辺にいる登場人物に好感をもつことで面白さを感じるんだと思うのですが、この朝倉恭介には魅力を感じませんでしたし、周りにいる人に対しても全く何にも魅力を感じませんでした。

コカインにはまって壊れていく人たち、コカインの中毒性を知りながら売って儲ける人たち、秘密を知るために拷問して殺害する人たち・・と、エグイ描写も多くて私には合いませんでしたバッド(下向き矢印)

最後まで何も救われることなく終わりましたしね・・。勧善懲悪が好きな私には辛かったです。必ずしも「悪は滅びる!」で終わらなくても、せめて納得のいく終わり方をしてくれたら良かったんですけど、これは思いっきり「悪は勝つ!」だったので納得もできませんでした。

もしかしたら、シリーズを読み続ければスッキリと終わるのかもしれませんが、解説を見る限りはそれも無さそうですし。私はたぶん、もう続きは読まないと思います。


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タグ:楡周平

2012年08月07日

藤原伊織「テロリストのパラソル」

テロリストのパラソル

 藤原伊織 著
 「テロリストのパラソル」
 (角川文庫)


ある土曜の朝、アル中のバーテン・島村は、新宿の公園で一日の最初のウイスキーを口にしていた。その時、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロが発生。島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキーの瓶を残してしまう。テロの犠牲者の中には、22年も音信不通の大学時代の友人が含まれていた。島村は容疑者として追われながら、事件の真相に迫ろうとする−。小説史上に燦然と輝く、唯一の乱歩賞&直木賞ダブル受賞作!−裏表紙より−


アル中の中年男性が主人公ということで、ちょっと引っかかりを感じていたのに、更に起きていきなり手の震えを感じて「ウイスキーを飲まないと!」と必死になって、なぜか公園に行って飲み始めるんですよね・・。しかもそれが日課だとか言いだすし。

主人公の雰囲気はハードボイルドらしいわけですが、始めの方の行動だけを読むと「この人のこと、好きになれるか?」と不安になってしまいました。

でもあっという間に話に引き込まれていて、気づけば主人公のことも好きになっていました(好きは言いすぎかもしれませんが)。


主人公・島村が公園でウイスキーを飲んでいると、見知らぬ少女が話しかけてきました。何となく静かな時間が流れるような穏やかな会話をし、少女が離れて行った直後に爆破事件が発生します。現場に駆け付けた島村は、先ほどの少女を探し出し、そこにいた青年に少女を託してあわてて現場から逃げました。

この時点で、なぜ彼はその場から逃げないといけないのか?がよくわからないのですが、それは徐々に明らかになっていきます。


犠牲者の中にある人物がいたことと、指紋が見つかったことで、島村の容疑が深まり、爆破テロの犯人として警察に追われることになりました。更に、なぜか暴力団らしき人たちからも脅しをかけられた島村は、事件の真相を探り始めます。


島村は、家族もいなくて孤独な人物なのですが、事件を調べ始めると様々な協力者が現れます。その人たちが、とても魅力的で、島村と交わす会話もシャレていて素敵でした。みんな、島村の危なっかしい行動にハラハラしながらも助けていく・・そんな姿を見て私も思わず応援してしまう感じでした。

全共闘時代なんかの話が出て来て、ちょっと理解できない部分や、雰囲気がつかみにくい部分がありました。結末というか、犯人などについては予想通りではありましたが、最後まで面白く読み切ることができました。


ハードボイルドがお好きな方はぜひ読んでみて下さい。


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タグ:藤原伊織

2012年07月14日

北村薫「空飛ぶ馬」

初めましての作家さんです。

空飛ぶ馬

 北村薫 著
 「空飛ぶ馬」
 (創元推理文庫)


どの一編もごく日常的な観察の中から、不可解な謎が出される。本格推理小説が謎と論理の小説であるとするなら、殺人やことさらな事件が起こらなくとも、立派に作品は書ける。勿論、これは凡百の手の容易になし得るものではないが、北村氏の作品は読後に爽やかな印象が残り、はなはだ快い。それは、主人公の女子大生や円紫師匠の、人を見る目の暖かさによるのだろう。鮎川哲也−裏表紙より−

落語家の師匠と女子大生のコンビが、日常のさりげない状況の中から、隠れた真実を探り出していく、北村薫のデビュー作。シリーズ第1弾。−出版社HPより−


織部の霊」「砂糖合戦」「胡桃の中の鳥」「赤頭巾」「空飛ぶ馬」の5編が収録されています。


ライトミステリーだということは知っていましたが、あまり内容を確認せずに手に取ったため、落語家さんが出て来て驚きました。女子大生と落語家の組み合わせって珍しいと思います。

でも、女子大生が今時の若々しいイメージではなく、大人びたというか、落ち着いているというか・・なので、違和感なく読めました。女子大生に見えなかったので、ある意味違和感あったわけですけどあせあせ(飛び散る汗)

しかもその女子大生は、主人公でありながら名前が無い!ずっと「わたし」と書かれていて、周りの友だちも「キミ」と言いますし、両親も名前を呼びません。それでも成り立っているのはすごいですが、何かこだわりがあったのか?と妙に気になりました。

始めの「織部の霊」以外は全て、“わたし”が日常で感じた謎や、他人から問いかけられた謎を、知り合いになった落語家・円紫に話して、彼が華麗な謎解きを見せるという展開になっています。

ほとんどの出来事を見ること無く、“わたし”に聞いた事柄だけで解いてしまう、すごい推理力の持ち主です。しかも、軟らかくて優しい視線で物事を見て謎解きをするので、とても好感がもてました。

“わたし”自身はほぼ謎解きはしないのですが、彼女がきちんと細かく話せるからこそ円紫さんも謎が解けるわけで、鋭い観察眼の持ち主だといえます。


話によっては、結構辛いというか、人間の暗い部分を解き明かすような物もあるのですが、最後に「空飛ぶ馬」で心温まる展開になり、最後も綺麗に終わることで、穏やかな気持ちで読み終えることができました。

時々、小難しい部分があって、私には理解できない所もあったのですが、それでも面白かったので、また次も読もうと思います。


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一か所、とても共感した所がありました。主人公が寝る前に本を読むのですが、眠る直前にページ数をじっと見つめてから眠ると、次の日でもどのページからだったかを覚えていて、栞を挟まなくても大丈夫・・という所。私もよくやるんです。朝の通勤時にページ数を見て閉じ、帰りにはサッと開ける。もちろん、仕事中はページ数のことなんか考えてないんですけど、何となく覚えているんですよね。不思議です。

 
タグ:北村薫

2012年07月12日

殊能将之「ハサミ男」

初めましての作家さんです。

ハサミ男

 殊能将之 著
 「ハサミ男」
 (講談社文庫)


美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作!−裏表紙より−


結構、長い話でしたが、話に引き込まれるのが早くて、思ったより早く読めました。後味は決してよくないんですけどね・・。

「わたし」の視点で話は進みます。つまり読者には「わたし」がどんな人物なのか、客観的に観察できない状態なんです。そこが、大きなポイントになっているわけですが、単純な私はただ単に一人称で語られているだけだと思って、ほとんど気にしなかったんですよね。

・・ということで、ものの見事にコロッと騙されました!ぴかぴか(新しい)


何を書いてもネタバレになりそうで感想も書きにくい作品なので、読んでもらうのが一番なのですが、単純な人は何度も何度も騙されてしまうと思います。でもその騙された感が心地良い!

お陰で後味は悪かったのに、本を閉じたときに「面白かったるんるん」と思えました。

結果がわかってから読み直したらどう思うのかな?という興味もあります。ただ、何度も書きますが後味がイマイチなので、再読したいか?というと、微妙ではあります・・。

事件自体もエグイですしね〜。


キレイに騙されたい方は読んでみて下さい。推理力がある方は騙されないかも??


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タグ:殊能将之

2012年06月19日

米澤穂信「春期限定いちごタルト事件」

初めましての作家さんです。

春期限定いちごタルト事件

 米澤穂信 著
 「春期限定いちごタルト事件」
 (創元推理文庫)


小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも共存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を摑み取ることができるのか? 新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書下ろし。−裏表紙より−


ライトなミステリーということで、人が死なず、特別ひどい悪人も出てこなくて、どこまでもさわやかな雰囲気の流れる話です。


小鳩君と小佐内さんの二人が、高校の合格発表を見に行く所から話は始まります。そのときも目立たず騒がず、合格してもあまり大きく喜ばず・・と周りに気を使っている様子の二人。

その様子を見ていると、優しくておとなしい、素敵な子だな・・と思ってしまったのですが。

読み進めるうちに、どうやら違うぞ!?と気づき始めました。終わるころには、小佐内さんのことはあまり好きではない気がする・・とまで思うようになりましたふらふら 計算高そうな感じがしてしまったんですよね。


小鳩君は、謎解きが得意で、学校で起きる様々な謎を鮮やかに解いてみせますが、その能力をどうやら隠しておきたいようです。その謎解きを披露するのを小佐内さんも望んでいない・・。

二人にはどうも過去に何か問題があったようで、そのトラウマ(?)で目立たない「小市民」を目指すことにしたみたいです。その過去の部分はほぼ明かされていません。それはシリーズを読み進めるうちに明らかになるのでしょう。


「小市民」がどんなものなのかよくわかりませんが、私も「目立たず静かに生きる」ことを目標にしているので、共感できる部分は少しありました。私には小鳩君みたいに謎解き能力も無いので、その目標は簡単にクリアできるわけですけど。目立ちたくても目立てる要素がない・・??もうやだ〜(悲しい顔)


二人の過去に少し興味が出て来たので、続きも読もうと思います。出てくるスィーツも美味しそうですし。


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タグ:米澤穂信

2012年06月08日

西澤保彦「麦酒の家の冒険」

麦酒の家の冒険

 西澤保彦 著
 「麦酒の家の冒険」
 (講談社文庫)


ドライブの途中、四人が迷い込んだ山荘には、一台のベッドと冷蔵庫しかなかった。冷蔵庫には、ヱビスのロング缶と凍ったジョッキ。ベッドと96本のビール、13個のジョッキという不可解な遺留品の謎を酩酊しながら推理するうち、大事件の可能性に思い至るが・・・。ビール党に捧げる安楽椅子パズル・ミステリ。−裏表紙より−


“僕”ことタック、ボアン先輩、タカチ、ウサコという4人の大学生は、ある事情から山荘で一晩過ごすことになりました。歩き疲れていたので、無断で侵入してしまったその山荘には、ベッドが一つだけ置いてありました。他には家具が一切なく、あったのは冷蔵庫だけ。しかもクローゼットの中に隠すように置いてありました。

冷蔵庫の中にはヱビスビールのロング缶がぎっしり・・。冷凍庫にはジョッキが凍らされていました。

疲れ切っていた4人は、のどの渇きもあって、そのビールを飲み始めます。他に食料も無いので、つまみも無くビールだけを飲み続ける4人。そこで始まったのは、この山荘の謎について推理すること。

それぞれが今ある状況だけをヒントに、どんな人物がなんの目的で、山荘にベッドと冷蔵庫だけを置いていたのか?ビールをどんどん空けながら推理していきます。


推理をするのが好きな人にとっては楽しめる作品だと思います。私は推理力がほぼ無いのでそれぞれが推理して話すことにいちいち「そうか、なるほど」なんて感心しては、他の人に否定されているのを読んでまた「そうだよね」なんて感心する・・をくり返して、まんまと作者の策にはまってしまいました。

まあお陰で、最後に全てが解決したときにも「ほぉ〜ぴかぴか(新しい)」と素直に感心して読み終わることができたので、十分楽しめたんですけどねわーい(嬉しい顔)

ビール好きの私としては、とりあえずビールが飲みたくて仕方ありませんでしたあせあせ(飛び散る汗) ビールを片手にのんびり読むとより楽しいと思います。これからの季節に最高の一冊と言えるかも。

ただ、二日酔いの人は要注意ですが・・。


ここに出てくるタックとタカチは他の作品にも出ていてシリーズになっているようです。他の作品も読んでみようと思います。


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タグ:西澤保彦

2012年06月05日

茅田砂胡「祝もものき事務所」

初めましての作家さんです。知人から借りました。

祝もものき事務所

 茅田砂胡 著
 「祝もものき事務所」
 (C−NOVELS)


やる気なし、根性なし、能力なしの事務所の所長が、凶器あり、指紋あり、目撃者あり、動機もありで現場不在証明なしの被告人の無罪証明を頼まれた!?茅田砂胡の新境地!−裏表紙より−


出てくる人物がなかなか面白い名前ばかりで、人物紹介の部分から笑ってしまいました。昔話の「ももたろう」みたいな感じ??主役が“百之喜太郎”(もものきたろう)で、仲間たちの名前の中には、犬、猿、雉、鬼の字が入っています。ただ、この人物紹介の部分で、それぞれの絵が描かれているのが・・・。漫画ならともかく、小説で人物像を描くのは止めて欲しい。しかもあまりそれぞれの顔に違いも無いですし。正直「これ要るか?」って思いました。


話は、椿江利という女性が百之喜の探偵事務所に「殺人容疑で逮捕された弟の容疑をはらしてほしい」と依頼された所から始まります。弁護士・雉名に百之喜を紹介されたとか。あまりにもやる気のない所長の様子を見て不安に思いながらも依頼しました。

読者的にも「大丈夫か?この所長・・」と不安になる感じなのですが、その後、どうやら彼の仲間が有能で、彼らが中心となって動くらしい・・とわかり、ちょっと安心できます。仲間というのは、先にあげた「犬、猿、雉、鬼」たちです。

雉は弁護士の雉名のことで、彼が椿江利の正式な依頼者であり、彼女の弟の弁護人です。雉名は、役者の芳猿、格闘家の犬槇、公務員の鬼光に声をかけ、百之喜と協力するように伝えます。

百之喜にはある力があるのですが、その能力は・・、ここでは書きませんが(書いてしまったらほぼネタばれ状態になるので)、ハッキリ言って本当にこれって能力なのか!?って最後まで疑ってしまう感じでした。

仲間たちも面白い名前の割には、あまり個性が光らないまま終了してしまいました。それが残念でした。もっと個性的に活躍してくれたらより面白かったと思うんですよね。


こんなふうに、主役を始め、仲間たちに魅力は感じなかったのですが「面白い」と思ったのは、事件の関係者として出て来た吾藤田という一族の話が壮絶だったからです。時代錯誤も甚だしい一族で「長男がとにかく大事、家の名誉を守るのが大事」という徹底した考えの元に生きている人たちなので、そこに生まれた女子や二男は親の愛情を一切もらうことなく育ってきました。

彼女らにはとにかく「家を汚さないこと」とだけ言いきかせて育てます。不名誉なこと以外は何をしても興味をもってもらえない。あまりにも徹底した考えに、ある意味潔ささえ感じてしまいました。

この一族の話が面白すぎて、せっかくのキャラ設定が全てかすんでしまったのは残念ですが・・。


シリーズ化しているので、きっと今後、個性が出て来て登場人物たちにも魅力を感じるようになるのでしょう。それを楽しみに続きも読むことにします。


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タグ:茅田砂胡

2012年05月29日

高殿円「トッカン 特別国税徴収官」

初めましての作家さんです。

トッカン

 高殿円 著
 「トッカン 特別国税徴収官」
 (ハヤカワ文庫)


税金滞納者を取り立てる皆の嫌われ者、徴収官。なかでも特に悪質な事案を扱うのが特別国税徴収官(略してトッカン)である。東京国税局京橋地区税務署に所属する新米徴収官ぐー子は、鬼上司・鏡特官の下、今日も滞納者の取り立てに奔走中。カフェの二重帳簿疑惑や銀座クラブの罠に立ち向かいつつ、人間の生活と欲望に直結した税金について学んでいく。仕事人たちに明日への希望の火を灯す税務署エンタメシリーズ第1弾!−裏表紙より−


「トッカン」という題名を見て「建設会社の話かな?」と思っていたのですが、税金の話・・たらーっ(汗) いつも本選びの参考にさせてもらっているブログで紹介されていなかったらきっと手に取ることも無かったであろう作品です。


税金って、大抵の人は給料からサラッと引かれていて、大体の金額は知っていても結構無頓着だったりしますよね。「高いな・・これが無ければ手取りも多くなるのに」とか思うことはありますが、だからと言って引かれる物は仕方ない・・という感じ。とりあえず国民の義務ですしね。みなさんがそうとは言いませんが、私はこの程度の認識でした。

テレビとかで「税金を滞納してた」なんて話を取り上げているのをたまに見ますけど、特に興味も無く流していましたから「そうか、取り立てる仕事をしている人がいるんだ・・」という当たり前のことにさえ気づいていませんでしたあせあせ(飛び散る汗)

確かに、きちんと真面目に払っている人からすれば、滞納している人がいるなんて腹立たしいことです。「ちゃんと払えよ!だから税金がどんどん上がるんでしょ!むかっ(怒り)」って怒りたくなりますよね。

この作品ではそういった悪質な手口でごまかしたり滞納したりする人たちが出て来て、それを特別国税徴収官である鏡さんがガツン!と取り立ててくれて、スカッとさせてくれます。ちょっとやりすぎじゃないの?と思えることもあるのですが、これも彼なりに考えがあってのことで、最後には納得できる展開になっています。


鏡の下に付いたのは新米の鈴宮深樹。言葉に詰まってすぐに「ぐっ」と言うから「ぐー子」というあだ名が付けられました。彼女が公務員である徴収官になった理由は「安定」を求めてのこと。鬼上司である鏡に付いて回るだけでも必死な毎日。言われるままに取り立てに行き、言われるままに滞納者に強い言葉を投げかける・・。

そんな彼女の成長の物語でもあります。「ぐっ・・」と詰まりながらも自分なりに考え、落ち込み・・でも必死で立ちあがる彼女の姿は思わず応援したくなりました。


鏡とぐー子のやりとりに笑ったり、ぐー子がボロボロになる度に涙したり、最後まで飽きずに楽しく読み切ることができました。


この作品はシリーズ化されていて、6月には3冊目も発売されるようです。文庫化はまだまだですけど。続きも楽しみです。


7月からドラマにもなるそうです。誰が演じるか?は書かないでおきますが(帯に載っているのですぐわかりますが)、一度見てみようかな?と思っています。


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タグ:高殿円

2012年05月28日

大山淳子「猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち」

初めましての作家さんです。

猫弁

 大山淳子 著
 「猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち」
 (講談社文庫)


お見合い30連敗。冴えない容貌。でも天才。婚活中の弁護士・百瀬太郎は猫いっぱいの事務所で人と猫の幸せを考えている。そこに舞い込むさらなる難題。「霊柩車が盗まれたので取り戻してほしい」。笑いあり涙ありのハートフル・ミステリー、堂々誕生!満場一致で第一位、TBS・講談社ドラマ原作大賞受賞作。−裏表紙より−


ドラマ原作大賞受賞という言葉に大いに納得できる内容でした。良い意味で映像化しやすそうな(実際ドラマ化しているわけですが)、ドタバタコメディでありながらシリアスな部分もあったり、ちょっとホロリとさせられる部分もあったりしました。


主人公の“猫弁”こと百瀬太郎は、天才ということになっていますが、それはどうでしょう??まあ天才なんでしょうけど、それよりも天然ボケ?って感じですね。彼の何気ない言動が周りに波紋を起こす・・という展開で、それが妙に面白いんですよね。

本当にちゃんと依頼をこなせるのか?ということが気になって、でも「天才」とわざわざ書いてあるんだから、大丈夫だよね??と少し不安に思いながら読み進める感じでした。


話を進める視点が次々と変わるので、一瞬、誰が言ってるのか?誰の視点なのか?がわからなくなる部分があって、そこは読みにくいと思ったのですが、百瀬がどうやって事件を解決していくのかが知りたくて一気読みでした。

謎の老婦人が出て来て、彼女の存在も話に良い流れをもたらしていましたし、出てくる人たちに本当の意味での悪い人はいない!という所もドラマ化しやすい理由かもしれません。


最後の一話では思わず泣かされてしまいました。百瀬は母親から「困ったときは上を見ろ」と教えられて育ちました。その教えを忠実に守って来た彼が、この教えの本当の意味を知るのです。その場面でウルウル・・としてしまい、更にその後、事務所の入り口のドアを黄色に塗っていた事務員の七重の言葉で思わずぽろり・・。

百瀬は「ひどい色に塗って」と嫌がっていたのに、実はその色に深い意味があると知ります。七重の想いが伝わる素敵な場面でした。


とてもきれいなまとまり方をして終わり、さわやかな気持ちで読み終わることができました。でもどうやら続編を考えているとか・・。シリーズ化も良いですが、このまま終わっても良かったような気もします。

まあ、彼の天然ボケぶりにまた会いたいような気もしますけどね・・。


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タグ:大山淳子

2012年05月22日

逢坂剛「百舌の叫ぶ夜」

百舌の叫ぶ夜

 逢坂剛 著
 「百舌の叫ぶ夜」
 (集英社文庫)


能登半島の突端にある孤狼岬で発見された記憶喪失の男は、妹と名乗る女によって兄の新谷和彦であると確認された。東京新宿では過激派集団による爆弾事件が発生、倉木尚武警部の妻が巻きぞえとなり死亡。そして豊明興業のテロリストと思われる新谷を尾行していた明星美希部長刑事は・・。錯綜した人間関係の中で巻き起こる男たちの宿命の対決。その背後に隠された恐るべき陰謀。迫真のサスペンス長編。−裏表紙より−


ブログでは初登場になる作家さん。以前、何かを読んだことがあるはずなんですが、題名は覚えていません・・バッド(下向き矢印) 「何だかおじさんっぽい文章を書く人だなたらーっ(汗)」と思って読みにくかった覚えがあります。でも、この作品は評判も良くて、警察小説も好きなので読んでみたいとずっと思っていました。


内容としては、公安警察と刑事の確執、公安内部の腐りきった状態、殺しを依頼する裏企業と知りすぎたテロリストの闘い・・といった、とてもハードな展開になっています。

文章はやっぱり古い感じがしますね。実際、古い作品ですから仕方ないのですが、時々読みにくさも感じました。

更に、時間の流れもわかりにくかったです。死んだはずの人が、何の説明も無く普通に登場して会話していたりするので、思わず戻って読み直してしまうこともありました。

作者のあとがきに「死んだはずの人間が生き返ったからといって、くれぐれも短気を起こして投げ出さないでほしい」と書かれていました。しかも、各章の見出しの数字の位置が上下していることで、その時系列を表していた・・とも書かれていました。先に言っておいてよ!って感じです。思わず投げ出しそうになったよ!!むかっ(怒り)

・・・・まあ、投げ出すほどには混乱しませんでしたけど、一瞬戸惑ってしまいました。何度かそういう場面があるとさすがに慣れてはきますけどね。


「百舌」の正体がわかった所辺りから、読むスピードも一気にあがりました。百舌の人生にも興味が出ましたし、百舌と対峙する公安の人間たちにも怒りがわきました。あまりにも腐った人間だったので・・。

これはシリーズになっているそうです。どうやってシリーズにするのか、1冊読んだだけでは想像がつきませんが、探して読んでみようかな?ちょっと時間を空けてから・・・。


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タグ:逢坂剛

2012年04月13日

天野頌子「よろず占い処 陰陽屋あやうし」

陰陽屋あやうし
 天野頌子 著
 「よろず占い処 陰陽屋あやうし」陰陽屋2
 (ポプラ文庫ピュアフル)


ホストあがりの毒舌イケメン陰陽師、安倍祥明がよろず相談ごとをうけたまわる占いの店「陰陽屋」は、王子稲荷界隈のみなさまに支えられて順調に営業中・・・だったのだが、アルバイトの妖狐、狐耳少年沢崎瞬太の高校の熱血担任が乗り込んできてひと騒動。また、祥明に結婚をせまる女性客の来店など、次々とピンチが到来。へっぽこコンビの運命はいかに!? 大好評既刊『よろず占い処 陰陽屋へようこそ』待望の続編!−裏表紙より−


1作目は中学生だった瞬太が、今回は高校生になっていました。昼間はほぼ起きていられない体質なので、成績はかなり悪いのにあるラッキーな出来事のお陰で、奇蹟的に高校に合格できたそうな・・。しかし、この出来事って、瞬太にとってはラッキーだけど他の子たちにとってはバッド(下向き矢印)・・あまり喜べない感じではあります。

高校生になって狐耳&狐尻尾って怖いと思っていたのですが、全く成長していない雰囲気なので、意外と普通に読めました。私の頭の中で、瞬太が高校生になっていないから違和感ないんでしょうけど。実際に街で見かける高校生に狐耳を付けたら・・ちょっと怖いですよね?がく〜(落胆した顔) まあ、彼は良い意味で成長していないから似合うんでしょう。


今回の陰陽屋は、瞬太の担任がやって来る所から始まります。あまりにも授業中に寝ている瞬太を見て、アルバイトが過酷なせいではないか?と疑って見に来たのです。周りの人はみんななぜ昼間に寝てしまうのか、その理由を知っているわけですが、それを公表するわけにもいかず、あの手この手で何とか担任を納得させようとします。

他にも瞬太の恋の話だったり、瞬太の母や祖母が持ち込む問題だったり、色々な事件が起こります。今回は祥明よりも瞬太の問題が主に語られていました。

出生の秘密?がちょっとわかってきそうな雰囲気もあり、今後の展開も楽しみな作品です。


出てくる人たちがほぼ良い人ばかりですし、妖狐をあっさり受け入れ、愛している周りの様子もとても癒されます。ホッと一息つきたいときに読むことをお勧めします。


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タグ:天野頌子

2012年03月27日

矢口敦子「あれから」

あれから

 矢口敦子 著
 「あれから」
 (幻冬舎文庫)


高校一年の千幸は、父が電車内で痴漢を働き、咎めた男性を線路に転落死させたと知らされる。妹の夕美と協力し、父の汚名を晴らそうと独自に調査した千幸だったが、叶うことなく家族は崩壊する。十年後、看護師として働く彼女の前に過去を彷彿させる女性が現れ、明らかにされた慟哭の真実。その時、千幸の胸に去来した想いは・・・。長篇ミステリ。−裏表紙より−


現在と十年前の過去が章ごとに交互に描かれています。

千幸が淡々とした付き合いを続けている男性と食事する所から話は始まります。そして、その彼との出会いもある十年前へと話は戻り・・。

十年前のある日、父親が出勤しようとしたとき突然倒れてしまいます。病院へ運ばれた父親を心配していた千幸と妹の夕美の所に現れたのは、二人の警察官でした。彼らは二人の父親が昨夜、痴漢をして咎めた男性を突き飛ばして殺害したのだと伝えます。

父親の無実を信じた姉妹は、学校を休み、事件のあった駅へと向かいます。被害者男性の通う大学へも行き、学生からも話を聞く二人でしたが、事件は最悪な結末を迎えました。


前半は、父親の無罪を信じて立ち向かう姉妹の様子が書かれていて、本当なら健気で良いな・・と好感もてる所なのでしょうが、妹の夕美が中学生の割にしっかりしすぎていて、というか冷静沈着すぎて共感できない部分がたくさんありました。千幸も高校生なんですから、このくらいうろたえてじたばたしていても良いはずなのに、妹がしっかりしすぎているせいで、頼りなさが際立ってイライラする所もありました。

なのに、夕美は案外あっさりと自殺してしまう・・・。その辺も理解できませんでした。家族を崩壊させるために必要だったのかもしれませんが、それにしてもあまりにもあっさり描かれていたので思わず呆然としてしまいました。姉妹の確執みたいなこともテーマになってるのかな?と思っていたので。


千幸が働く病院に入院してきた被害者男性の遺族。彼女も辛い過去を背負って生きてきました。でも彼女にもあまり共感できなかったんですよねバッド(下向き矢印)

と、どうも話に入り込めない感じがしたまま、終わってしまいました。

結構重い内容の事件ですし、それぞれの人生も過酷なのに、あまりにもあっさりと軽く書かれすぎていたからかもしれません。

ただ、最後は千幸に明るい未来がやって来そうな雰囲気だったので、読み終わって清々しい気持ちになれたのは良かったです。最後まで暗いままだと辛すぎますから・・。


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タグ:矢口敦子