2022年11月24日

薬丸岳「告解」

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 薬丸岳 著
 「告解」
 (講談社文庫)


深夜、飲酒運転中に何かを撥ねるも、逃げてしまった大学生の籬翔太。翌日、一人の老女の命を奪ってしまったことを知る。罪に怯え、現実を直視できない翔太に下ったのは、懲役四年を超える実刑だった。一方、被害者の夫・法輪二三久は、ある思いを胸に翔太の出所を待ち続けていた。贖罪の在り方を問う傑作。−裏表紙より−


車を運転していたら誰もが起こしてしまうかもしれない人身事故がテーマになっています。

大学生の翔太は恋人からの呼び出しに応じる形で飲酒していたのに夜中に車を走らせることに。ちょっと脇見をした瞬間に起きた事故。人らしきものを撥ねたことには気づきましたが、きっと勘違いだろうと自分に言い聞かせるようにしてそのまま走り去ります。

「もし人を撥ねていたら」「もし死んでいたら」「飲酒運転だから罪が重くなる」と瞬時に考えて怖くなるのはわかる気がします。自分は運転しないので加害者にはなりようがないのですが、もしそんなことが起きたらと思うとぞっとします。

家族が被害にあったらどう思うのだろうか?と考えながら読んでいると、ずっと苦しくてたまりませんでした。闘病の末に亡くなっても悲しいのに、突然亡くなるなんて・・・想像できません。

せめて加害者になったら冷静に車を止めて救急車を呼んで対応していれば心の傷も罪の重さももっと軽かっただろうに、それを背負うには若すぎたのかもしれません。


物語は被害者家族の目線でも進みますが、基本的には加害者の目線で進みます。彼は懲役四年という判決が出され、実際にはそれを越える年数を服役しました。

出所した時に父親からは勘当同然の対応をされ、姉からは「今後会うことはない」ときっぱり言われます。母親だけは同情的な感じがありましたが全面的に支援するということはありません。それだけ加害者の家族に対する風当たりも強いということです。子どものしたことに親の責任があるのはわかりますが、兄弟にも影響があるのは当然です。世間から責められるのもそうですが、自分の家族が人を殺してしまったことを受け入れるのは難しいと思います。ある意味、加害者と同じように罪を背負って生きていく感じになるでしょう。

そんな家族の対応に翔太は仕方ないと思いつつも、服役したことで罪は償ったはずなのにどうしていつまでも責められるのかわかっていない感じでした。被害者遺族に対する気持ちが足りないのが読んでいてイライラしました。


次第に被害者の夫の行動が描かれて行き、もしかして復讐しようとしているのか?と心配になる展開が続きます。そんな悲しみの連鎖で終わるのは辛いと思っていたら思わぬ展開に。

題名でもある「告解」部分では涙無しでは読めない状態。家で読まないと無理でした。そんな思いを抱えて生きていたなんてなんて重い人生なんだろうと心が痛くなりました。


加害者の人生も、被害者遺族の人生も、加害者家族の人生も、何とか明るく豊かになってもらいたいと強く願ってしまいました。


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2016年06月02日

薬丸岳「その鏡は、嘘をつく」

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 薬丸岳 著
 「その鏡は、嘘をつく」
 (講談社文庫)


鏡ばかりの部屋で発見されたエリート医師の遺体。自殺とされたその死を、検事・志藤は他殺と疑う。その頃、東池袋署の刑事・夏目は同日現場近くで起こった不可解な集団暴行事件を調べていた。事件の鍵を握るのは未来を捨てた青年と予備校女性講師。人間の心の奥底に光を当てる、著者ならではの極上ミステリー。−裏表紙より−

帯に「泣かずにはいられない」と書かれていましたが、「泣かずに」居られました・・・。泣くというよりも、嫌悪感が強くて、ずっと気分が悪い状態で読み進めました。

夏目刑事シリーズ第2弾で、「刑事のまなざし」の続編です。

夏目刑事の刑事らしくない雰囲気が気に入っていたのですが、この作品ではあまり彼の刑事らしくない部分は出てこなくて、ただただ変な刑事という扱いになっていました。

彼よりも、検事・志藤の方が重要な役目を果たした感じでした。この人も色々と抱えているようですが。きっと彼の話もまた出てくるでしょう。


今回の被害者となった男性・エリート医師は、始めは「エリート」と付く割には良い人なのかも?と思えたのですが、だんだん印象が悪くなっていきました。

最終的には殺されても仕方がない、とまでは言いませんが、それに近い感情さえ沸いてしまうくらい。

加害者やある意味、彼にひどい仕打ちをされた被害者たちがかわいそうで、罪を犯さないといけなかった彼らに同情してしまいました。


関係者のほとんどは医療関係の人たちで、実家が病院だから子どもに継がせようと必死になっていたり、当たり前のように継がされていたり、「お医者さんって人助けして立派な仕事で素敵」と気軽に言えないような苦しみを味わっている人たちばかりです。

金銭的に苦労しないで済む分、親からかけられるプレッシャーに耐え切れなくて壊れそうになる子どもや、なりたい物になれない金銭面の苦労がある子ども、医師になっても周りからの圧力に負けてしまう人など、読んでいて苦しい描写もたくさんありました。

相変わらず読んでいて暗く、重い雰囲気になっていく作品でした。

それでもまだ「医師」という自分とはかけ離れた世界の話だったせいか、今までの作品よりは重くなりすぎずに読み切ることができました。


次は何を読もうか? 今度はあまり間をあけなくても読めそうです。


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2015年07月09日

薬丸岳「ハードラック」

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 薬丸岳 著
 「ハードラック」
 (講談社文庫)


二五歳にもなって日雇い仕事すら失い、「大きなことをするため」闇の掲示板で四人の仲間を募った仁は、軽井沢で起きた放火殺人の汚名を着せられてしまう。なぜおれを嵌めた? 信じられるのは誰だ? 手探りで真犯人を探す仁、闇世界の住人たち、追う刑事。物語は二転三転し、慟哭の真相へと向かっていく。−裏表紙より−


この作家さんの作品はいつも重いテーマで書かれていて、深く考えさせられる何かがあるのですが、今作はちょっと雰囲気が違いました。帯に“薬丸岳の新境地”と書いてあったのが納得できる内容になっていました。

話に一気に惹きこまれる面白さは健在で、誰が犯人なのか?どうしてこんな事件が起きたのか?次々出てくる謎に答えが知りたくて、次々ページをめくってしまいました。

お陰で、ページ数が多い割に早く読み終えることができました。


25歳で無職になり、揚句に最後の貯金まで無くなってしまい、明日からどうやって生きていけば良いのか?先の見えない状況に陥ってしまった仁が、闇の掲示板に「何か大きなことをしよう」と書き込んだことから、事件が動き始めます。

集まったのは、バーボン、ラム、テキーラ、そして鈴木の4人。本名も何も素性を明かすことなく、ある大きな犯罪を計画していまう彼ら。実行した後に気づけば殺人事件に巻き込まれていて、仁は容疑者となってしまいます。

4人の中に仁を嵌めた人物がいるはず、と独自に調査を始めるのですが、誰のことも信用できず、どうやって調べたら良いのかもわからない状態なので、なかなか思うように進みません。


次々あがる犯人像に読んでいる私も推理を変化させることになり、最後はなるほどこの人だったか・・という結末。まあちょっと疑ってはいましたが。

表紙をじっくり見ていたら何となくわかるかも??

動機を知るとかわいそうになりますし、仁を含め他の人たちももう少し何かきっかけがあれば、違う人生があったのではないか?と思うと泣けてきます。

誰かが手を差し伸べていれば違ったのに・・。ある意味、誰にでも仁たちのようになる可能性があるということでもあり、ぞっとさせられました。


最後まで面白かったのですが、この作家さんでも書けそうな物語だったので、ちょっと物足りなさもありました。今度は重いテーマの作品をまた読んでみようと思います。


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2014年12月10日

薬丸岳「死命」

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 薬丸岳 著
 「死命」
 (文春文庫)


若くしてデイトレードで成功しながら、自身に秘められた女性への殺人衝動に悩む榊信一。ある日、余命僅かと宣告され、欲望に忠実に生きることを決意する。それは連続殺人の始まりだった。元恋人の澄乃との皮肉な再会。犯人逮捕に執念を燃やす刑事・蒼井にも同じ病が襲いかかり、事件の展開は衝撃の結末を―。


この作家さんは重いテーマで描かれる作品が多いので、覚悟して読み始めた所、今回はどうも違う雰囲気でした。でもやはり、テーマになっているのは“命”なので、内容的には重かったです。

ただ、余命僅かだと宣告されて、「よし、今まで我慢していた殺人をやっていこう!」と決心する気持ちは全く理解できませんし、その衝動に駆られた彼の心情や行動を細かく描写された場面では、顔をしかめずにはいられないエグさ、グロさがありました。

もう1人の人物である、刑事の蒼井の気持ちも全く共感できませんでした。そこまで刑事であることにこだわる彼の生き方は不器用すぎて、苦しんでいる場面も顔をしかめながら読んでいる自分がいました。


そんな内容なのに、ものすごく話に入り込んでしまい、気づけば夢中になっていました。寝る時間を削っても読んでしまいたくなる作品で、2人の男性が1つの事件を通して、どんな出会い方をするのか、どんな余命を生き抜くのかがとても気になりました。

こういう作品では、最期の場面を描かずに、周りの人物が墓参りなどして「あ〜、亡くなったんだな」と知らせられるパターンが多いのですが、これはきちんと描いてくれたのでとても良かったです。

彼らは壮絶な人生を生きて、どんな想いで死んでいくのか、ぜひ読んでみてもらいたいです。

読み終わったら、かなり気持ちは落ち込みますけどね・・・。


この作家さんは間を空けないと辛いのですが、次はどんな作品を読もうかな??


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2014年01月21日

薬丸岳「天使のナイフ」

天使のナイフ

 薬丸岳 著
 「天使のナイフ」
 (講談社文庫)


生後五ヵ月の娘の目の前で妻は殺された。だが、犯行に及んだ三人は、十三歳の少年だったため、罪に問われることはなかった。四年後、犯人の一人が殺され、桧山貴志は疑惑の人となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」。裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描いた、第51回江戸川乱歩賞受賞作。―裏表紙より―


今回も重かったです・・。でも、読んで良かったと思える作品でした。


妻を13歳の少年3人に殺害された桧山が、遺された娘を育てながら何とか日常を取り戻していた頃、犯人の少年1人が彼の職場の近くで殺害される事件が起きました。

妻が殺害されて、犯人が裁かれないことを知った桧山は、当時インタビューで「代わりに殺してやりたい」と答えてしまったため、真っ先に疑われてしまいます。

せっかく日常を少しずつ取り戻していた桧山の周りがまた騒がしくなり、また事件のことを思い出すはめになりました。


当時のことを思い出して苦しみながらも、娘を育てるという大切な役割があり、板挟みになっている様子は読んでいてつらかったです。

ページ数がたくさんあるのに、結構早い段階で桧山の疑いが晴れてしまうので、残りはどうするのか?と思いつつ読み進めると、どんどん新たな展開が起きました。後半は明らかにされる出来事に、桧山と共に翻弄されながら、ほぼ一気読みでした。

身近な人物や妻の意外な過去が明らかにされていく度に、何度も涙が出そうになりました。

最後には何とか前を向いて生きてくれそうだったので、それだけが救いでした。


途中で説明のあった、

刑事裁判と違って少年審判には、検察官のような加害者の罪を問う人物はいないのだ。少年審判は、裁判官と、調査官と、少年たちの付添人、そして少年たちの保護者、つまりは少年たちを守ろうとする近親者たちだけで進められるのである。
さらに少年審判は非公開で、被害者やその家族ですら膨張することができない。調査官は被害者の家族である桧山の慟哭に耳を傾けることもなく、被害者側の苦悩を裁判官に届けることもしないのだ。


という文章には怒りと共に悲しみもわきました。

確かに少年の未来を奪ってしまうのはいけないことかもしれません。でも、被害者や遺族が蔑ろにされて良いはずがありません。

人を殺すという取り返しのつかない過ちを犯しておいて、被害者や遺族に対する贖罪も無く生きていくのは間違いだと思います。それを悔やみながら、常に反省しながらも、前を向いて生きていくことが少年のためになると思います。

事件に巻き込まれたこともなければ、子育てしたこともない私が言えることではないかもしれませんが・・。


また別の作品も読むつもりです。しばらく間をあけて。


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2013年05月17日

薬丸岳「虚夢」

虚夢

 薬丸岳 著
 「虚夢」
 (講談社文庫)


通り魔事件によって娘の命は奪われた。だが犯人は「心神喪失」状態であったとされ、罪に問われることはなかった。心に大きな傷を負った男は妻とも別れてしまう。そして事件から4年、元妻から突然、「あの男」を街で見たと告げられる。娘を殺めた男に近づこうとするが・・。人の心の脆さと強さに踏み込んだ感動作。―裏表紙より―


この作品もとても重い内容でした。自分が当事者にならない限り、ニュースで取り上げられていても右から左へ流してしまうようなことを、しっかり考え直そうと思える作品でした。


今回取り上げられているのは「刑法三十九条」の問題です。この数年特によく聞くようになった気がする法律ですね。三十九条には“心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する。”ということが書かれています。

つまり、罪を問うには「責任能力があるかどうか」が重要なのです。責任能力が無いと判断されれば、罪の意識も無いから仕方ないということなんですよね(すごく簡単に言ってますけど)。

通り魔によって娘を殺された両親は、この刑法によって更に苦しめられます。娘を殺した犯人は「統合失調症」だったため、罪に問われることなく、裁判されることもなく、病院で治療しただけで、たった3年入院しただけで社会へ戻れたのですから。

母親は、ある決断をし、娘の仇を取るために動き始めます。彼女が書いた手紙の内容を読むと、母親というのは本当に強いもので、子どもに対する愛情は絶対で、あまりの偉大さに圧倒されました。そして、あまりの悲しさに泣けてきました。


被害者の両親の話以外に、犯人が関わっている“ゆき”という風俗で働く女性の話も描かれています。彼女にも悲しくて辛い過去があり、ここでは詳しく書きませんが、ゆきの問題も重くのしかかってきました。


とても重いテーマで、読んでいる間ずっと「自分ならどう感じるのだろうか」と考えさせられました。三上が言っていた、
人を殺そうとする時点で、その人間の精神は病んでいるのではないだろうか、ということだ。それは犯行時の瞬間的な物かもしれないが、正常な精神ではないから人を殺せるのではないのか
ということは、私もいつも思っていました。まともな精神状態で殺人ができるわけないんですよね。なのに「心神喪失」って何だろう?ある特定の人だけがそうやって罪を逃れるのは納得できません。確かに病気といわれれば、仕方ないのかもしれませんけど、被害者の立場になると「仕方ない」では済みませんよね。

この犯人と同じ「統合失調症」にかかっているからといって、犯罪を犯すわけではなく、ほとんどの人は病気と闘って静かに暮らしているのです。なのに事件を起こす人がいるせいで、この病気の人が差別視されるのも違うと思います。

でも、罪を逃れるのは納得できません。・・・・本当に難しい問題です。


また別の作品も読もうと思います。もう少し間をあけてからですが。


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2013年01月23日

薬丸岳「悪党」

悪党

 薬丸岳 著
 「悪党」
 (角川文庫)


探偵事務所で働いている佐伯修一は、老夫婦から「息子を殺し、少年院を出て社会復帰した男を追跡調査してほしい」という依頼を受ける。依頼に後ろ向きだった佐伯だが、所長の木暮の命令で調査を開始する。実は佐伯も姉を殺された犯罪被害者遺族だった。その後、「犯罪加害者の追跡調査」を幾つも手がけることに。加害者と被害者遺族に対面する中で、佐伯は姉を殺した犯人を追うことを決意し・・・。衝撃と感動の社会派ミステリ。−裏表紙より−


以前読んだ「刑事のまなざし」も色々と考えさせられ、悩みながら読んだのですが、今回の作品も重かったです。「刑事のまなざし」は主人公が柔らかい雰囲気を出す人だったのでまだ明るさもあったのですが、今回は暗さもあって重みが増した気がしました。


話は、佐伯修一が子どもの頃から始まります。プロローグの最後で、姉・ゆかりが暴行を受け、殺害されてしまいます。その遺体を修一は見てしまったことで、心の傷を負ってしまいます。

そして話は10数年後に飛び、修一は探偵事務所で働いています。警察官になったのに、数年前に懲戒免職になり、所長・木暮に拾われたのです。

その事務所に依頼にやって来たのは、ある老夫婦。「息子を殺した男が今どうしているのか知りたい」という依頼でした。居場所を突き止めた修一に対し、老夫婦は更に「彼が今、事件のことを反省しているのかどうか知りたい」と依頼します。反省しているかどうか、彼のことを許せるかどうか、は修一の判断に任せると言われ、相手に近づくことにします。

殺人事件を犯した男と話すうちに、姉の事件とも重ね合わせてしまい、苦しむ修一。老夫婦に出した答えが、また新たな事件を生むことに・・。


加害者と被害者遺族、両方に関わることで、姉の事件をどうしても思い出して、「自分ならどう思うのか」「姉を殺した犯人は反省しているのか」「反省していたら許せるのか」など、悩み苦しむ修一の様子は、読んでいても辛かったです。

気持ちがわかる、なんてことは簡単に言えませんが、どうすれば彼が救われるのか?一緒になって悩みながら読み進める感じでした。


修一の父親が久しぶりに会った息子に対して言った「いつでも笑っていいんだぞ。いや、笑えるようにならなきゃいけないんだぞ。おれたちは絶対に不幸になっちゃいけないんだ」というセリフに涙しました。本当にそうだと思います。被害者遺族が不幸になってはいけないんですよね。


最後まで苦しい展開が続きますが、最後にはちょっと救われそうな感じで終わっていたので良かったです。本当に救われるのかはわかりませんが、そうなりそうな感じだったのがうれしかったです。


この作家さん、追うことにします。重いのでちょっと間をあけながら・・。


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2012年08月03日

薬丸岳「刑事のまなざし」

刑事のまなざし

 薬丸岳 著
 「刑事のまなざし」
 (講談社文庫)


ぼくにとっては捜査はいつも苦しいものです―通り魔によって幼い娘を植物状態にされた夏目が選んだのは刑事の道だった。虐待された子、ホームレス殺人、非行犯罪。社会の歪みで苦しむ人間たちを温かく、時に厳しく見つめながら真実を探り出す夏目。何度読んでも涙がこぼれる著者真骨頂の連作ミステリ。−裏表紙より−


少年鑑別所の法務技官だった夏目は、10年前に起きたある事件をきっかけに、刑事になりました。

その事件では愛娘が連続通り魔に頭を殴られ、そこから意識が戻らない状態が続いているのです。なかなか捕まらない犯人を探すため、夏目は刑事になりました。

刑事になったからといって、自分の気になる事件だけを負うわけにはいきません。ずっと解決する気配のないまま時が過ぎていきました。

それでも卑屈になることはなく、犯罪を犯した少年と向き合っていた頃のように、優しく真摯に事件と向き合っていく、ある意味刑事らしくない刑事になりました。

彼の人と向き合う姿勢はとても素敵で、被害者はもちろん、加害者の気持ちもほぐしながら、でもきちんと罪をつぐなうためにはどうすればいいか?を考えて、言葉を掛けます。そんな彼の姿を見て心を動かされ、犯人は自首してくることもありました。


取り上げられる事件は、あらすじにもあるように社会問題となっている物がほとんどで、加害者側にも罪を犯したことに対して多少の同情の余地はあるかもしれません。でもだからといって、殺人を容認しているわけではなく、全編を通して「どんな理由があったとしても、人を殺して何かが解決することは無い」という当たり前のことを改めて再確認させられる気がしました。

中には後味の悪い話もありましたが、ほとんどは被害者も加害者も救われる結末になっていました(殺害された者は救われてはいないでしょうが・・)。事件自体は重い物ばかりですが、どこか爽やかな気持ちになれるような、優しい気持ちになれるような作品でした。


この作家さんの作品、他も読んでみたいと思います。


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