
北森鴻 著
「なぜ絵版師に頼まなかったのか」
(光文社文庫)
葛城冬馬、十三歳。明治元年生まれの髷頭の少年は、東京大學医学部教授・ベルツ宅の給仕として働くことになった。古式ゆかしき日本と日本酒をこよなく愛する教授は、比類無き名探偵でもあった。米国人水夫殺害事件、活き人形が歩き出す怪事・・数々の難事件を、冬馬の調査をもとに鮮やかに解決してゆく。史実を絶妙に織り交ぜながら綴る、傑作ミステリー!−裏表紙より−
この作家さんの作品を読むのは久しぶりです。3年半ぶり? 何だか懐かしい気持ちで読みました。
時代背景は、私があまり読まない明治時代です。明治の時代になって13年目の日本を舞台に、葛城冬馬という少年の成長と共に、様々な事件を解決していく様子が描かれています。
「なぜ絵版師に頼まなかったのか」「九枚目は多すぎる」「人形はなぜ生かされる」「紅葉夢」「執事たちの沈黙」の5編が収録された連作短編です。
5つの事件を冬馬が調べて、雇われ外国人のベルツ教授が謎解きしていくパターンで話は進みます。ベルツは実在の人物だそうで、東京大學医学部の教授という所もそのまま使われています。まあ、彼ほど変わった人だったかはわかりませんが。
日本贔屓なのは良いのですが、冬馬を雇った理由も「髷頭だから」というくらい、古き良き日本が大好きです。着物を羽織って過ごすこともしばしば。
かなり変わった人ではありますが、医療の道では優秀な人なので、尊敬されていて、政府の要人を治療することもよくあります。お陰で、事件に巻き込まれることもあります。
特に「人形はなぜ生かされる」と「紅葉夢」では、ベルツが密かに治療している要人が巻き込まれるため、自然とベルツも巻き込まれていくようになります。
まだまだ不安定だった時代の日本ですから、政府の要人を亡き者にしようとすることや、逆に死を隠すようなことも起きています。その中心にいるわけですから、巻き込まれるのは当然ではあります。
ベルツだけでも十分変わった人物なのですが、彼の周りには更に変な人がたくさんいます。外国人たちはもちろん、市川歌之丞という新聞記者も不思議な存在感でした。1話目から登場するのですが、2話目以降どんどん名前も職業も変化していくため、冬馬も「どのようにお呼びすれば?」と毎回聞かないといけないくらい。
どうやって生計を立てているのかとても不思議で謎の多い人物なのですが、頭の切れは抜群ですし、人脈も多いため、情報もすぐに仕入れてきてくれます。冬馬やベルツの推理に欠かせない、心強い人でした。彼の魅力もこの物語の面白さの1つになっています。
時代背景的に慣れていないせいもあって、読み終わるのに時間がかかってしまいましたが、最後までワクワクしながら読むことができました。この時代の物語を読むと、よく日本はここまで成長できたなと感心します。
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