
山本一力 著
「たまゆらに」
(文春文庫)
若い娘ながら青菜の目利きに長けた棒手振りの朋乃。ある朝仕入れに向かう橋の上で、大金の入った財布を拾う。商いに障ると知りながらも、落とし主を救うため自身番に届け出たのだが―欲深さ、狡猾な保身に満ちた浮世を、正直に誇り高く生きることの価値を描いて爽やかな感動を呼ぶ、極上の人情時代小説。−裏表紙より−
初めましての作家さんです。
久しぶりの時代小説でした。やっぱり良いですね。
主人公・朋乃の細かい説明もないままに話が進んで行くので、始めは戸惑ってしまったのですが、なぜ説明が無かったのかがわかってからはどんどん引き込まれていきました。
朋乃は、青菜売りをしている娘で、女性では珍しく棒手振りをしています。でも、目利きの良さは評判になっていて、なじみ客も多いようです。
そんな彼女が仕入れに向かう途中で財布を拾ってしまいます。愛犬・ごんが見つけました。“仕方なく”番屋へ届けることにした朋乃。・・・なぜ“仕方なく”なのか?というと、この時代、財布を拾って届けると、番屋で色々と細かい事情を聞かれることになり、商売に響くので、普通は届けずに放っておくか、そのまま懐に入れてしまうようです。
善意のつもりでも、色々とややこしいんですね。
でも、朋乃は愛犬が気づいたせいもあり、正直に届けることに。思った通り、自身番では根掘り葉掘り聞かれてしまいます。更に、中身が50両という大金だったせいで、盗人扱いされるほど。
中に屋号の書いた紙が入れてあったため、その店に届けることになりました。その店は実は朋乃と因縁のある店でした。その事情も説明しなければならず、取り調べは長時間に及びました。この部分で、朋乃の生い立ちが明かされていきます。この時代ならではの悩みというか苦労を重ねて育ってきた女性だったことがわかります。
大金を届けられた店では、喜んでもらえるか?と思いきや、店の手代がごまかしたお金だったので、あえて知らないと言わずにいられません。
十手持ちから責められても、店の主人は「知らない」と言い張り、その攻防は何度も繰り返されました。この部分がやたらと長々書かれていて、そろそろ退屈しそうになったとき、朋乃が動きます。
その鮮やかな口調と解決法に、読んでいてスッキリさせられました。ここまで読んできて良かったと思えました。
話の中で、何度もお茶を淹れる場面が出てきます。このタイミングではどんなお茶を出すのか、どのくらいの温度で出すのか、など色々な心得が書かれていました。勉強になるのと同時に、とても喉が渇く気がしました。美味しい緑茶が飲みたくなります。
時代小説ならではの面白さがたくさん詰まっている、読み応えのある作品でした。とても読みやすかったので、他の作品も読んでみようと思います。
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