
薬丸岳 著
「虚夢」
(講談社文庫)
通り魔事件によって娘の命は奪われた。だが犯人は「心神喪失」状態であったとされ、罪に問われることはなかった。心に大きな傷を負った男は妻とも別れてしまう。そして事件から4年、元妻から突然、「あの男」を街で見たと告げられる。娘を殺めた男に近づこうとするが・・。人の心の脆さと強さに踏み込んだ感動作。―裏表紙より―
この作品もとても重い内容でした。自分が当事者にならない限り、ニュースで取り上げられていても右から左へ流してしまうようなことを、しっかり考え直そうと思える作品でした。
今回取り上げられているのは「刑法三十九条」の問題です。この数年特によく聞くようになった気がする法律ですね。三十九条には“心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する。”ということが書かれています。
つまり、罪を問うには「責任能力があるかどうか」が重要なのです。責任能力が無いと判断されれば、罪の意識も無いから仕方ないということなんですよね(すごく簡単に言ってますけど)。
通り魔によって娘を殺された両親は、この刑法によって更に苦しめられます。娘を殺した犯人は「統合失調症」だったため、罪に問われることなく、裁判されることもなく、病院で治療しただけで、たった3年入院しただけで社会へ戻れたのですから。
母親は、ある決断をし、娘の仇を取るために動き始めます。彼女が書いた手紙の内容を読むと、母親というのは本当に強いもので、子どもに対する愛情は絶対で、あまりの偉大さに圧倒されました。そして、あまりの悲しさに泣けてきました。
被害者の両親の話以外に、犯人が関わっている“ゆき”という風俗で働く女性の話も描かれています。彼女にも悲しくて辛い過去があり、ここでは詳しく書きませんが、ゆきの問題も重くのしかかってきました。
とても重いテーマで、読んでいる間ずっと「自分ならどう感じるのだろうか」と考えさせられました。三上が言っていた、
人を殺そうとする時点で、その人間の精神は病んでいるのではないだろうか、ということだ。それは犯行時の瞬間的な物かもしれないが、正常な精神ではないから人を殺せるのではないのか
ということは、私もいつも思っていました。まともな精神状態で殺人ができるわけないんですよね。なのに「心神喪失」って何だろう?ある特定の人だけがそうやって罪を逃れるのは納得できません。確かに病気といわれれば、仕方ないのかもしれませんけど、被害者の立場になると「仕方ない」では済みませんよね。
この犯人と同じ「統合失調症」にかかっているからといって、犯罪を犯すわけではなく、ほとんどの人は病気と闘って静かに暮らしているのです。なのに事件を起こす人がいるせいで、この病気の人が差別視されるのも違うと思います。
でも、罪を逃れるのは納得できません。・・・・本当に難しい問題です。
また別の作品も読もうと思います。もう少し間をあけてからですが。
↓ ランキングに参加中 ポチッ×2と押して下さるとうれしいです。

