
加納朋子 著
「ガラスの麒麟」
(講談社文庫)
「あたし殺されたの。もっと生きていたかったのに」。通り魔に襲われた十七歳の女子高生安藤麻衣子。美しく、聡明で、幸せそうに見えた彼女の内面に隠されていた心の闇から紡ぎ出される六つの物語。少女たちの危ういまでに繊細な心のふるえを温かな視線で描く、感動の連作ミステリ。日本推理作家協会賞受賞作。−裏表紙より−
久しぶりにこの作家さんの作品を読みました。相変わらず惹き込まれる文章とストーリー展開、そして読み終わった後に、ほ〜っとため息が出るという作品でした。
珍しかったのは、いきなり殺人事件から始まった所。殺人なんて言葉から遠い話を書く作家さんなので、ちょっと驚きました。でも、読み進めると、殺人だけではない部分にスポットが当てられていて、その辺はやはりこの作家さんらしいと感じました。
何よりもずっと流れる温かい雰囲気と優しい文章と登場人物たちが語る言葉が、殺人という殺伐とした物を吹き飛ばしてくれるような気がしました。
一つの殺人事件を通し、被害者となった美少女・麻衣子に関係のある人物たちの物語が描かれています。それを6人の視点で6話、でも連作短編なので、全てつながりがあります。
題名の「ガラスの麒麟」というのは、被害者・麻衣子が書いていた童話のタイトルです。この童話の内容も、彼女の人生をうまく表現してあって、高校生らしい脆さも出ています。
麻衣子自身の言葉で自分のことが語られるのは、この童話だけ(途中、別の物でも語られますがそれは書かずにおきます)なのですが、1話毎に周りの人たちが麻衣子のことを考え語るので、少しずつ彼女の人物像というか、人生がわかってくるようになっています。
その中に少しずつ入っているミステリの要素。それを見事に謎解くのは、麻衣子の通っていた高校の保健室の神野先生です。彼女の鋭い観察力で1話毎にスッキリ謎が解けます。
でもずっと解決しないのが、麻衣子を殺したのは誰か?という問題。それと共に、彼女の人生に興味もあって、次々と読み進めていきました。
謎解きをする神野先生にも忘れられない過去があり、彼女のこともかなり気になります。麻衣子の友人・直子やその父親、父親の親友(悪友?)・小宮とその妻・静香などなど、魅力的な人たちが出てきて、人物だけでも楽しめました。
最後に事件の真相が明らかになるわけですが、そこははっきり言ってあまりスッキリできませんでした。なので、ミステリとしては楽しめないかもしれません。それでも読み終わったらきっと何か重くて尖った物が心に刺さって、しばらくはぼんやり考え事をしたいような、そんな気持ちにさせられるはず。
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