2012年10月05日

伊坂幸太郎「ラッシュライフ」

ラッシュライフ

 伊坂幸太郎 著
 「ラッシュライフ」
 (新潮文庫)


泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場−。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。―裏表紙より―


読み終わったときに「堪能した〜!」と満足のいく作品でした。この作家さんらしい、不思議な、でも全てが収まるべき所に収まる感じが心地よかったです。

初めにエッシャーのだまし絵の一つが載せられています。お城のような建物の外階段が上がっているような下がっているような・・というあの有名な絵です。

どういう意味があるのかわからないまま読み始めました。・・・で、読み終わると「なるほど」と納得できます。

物語全てがだまし絵のような、不思議な展開になっているんです。話の中にも「エッシャー」の話は時々出てきます。


話は主に、4人の視点で進められます。泥棒の黒澤、新興宗教的な物にはまっている河原崎、旦那と別れて不倫相手と再婚しようとしている京子、リストラされて求職中の豊田。

4人の話は、挿絵によって区切られていて、全く違う話のように描かれます(挿絵にはそれぞれの人物に関係のある物が使われています。黒澤は泥棒、河原崎は神様、京子は車、豊田は犬を連れた人)。ただ、場所や関わった人物など、少しだけ何か接点があるようになっています。

しばらくそのまま並行した状態で話が進んでいくので、何が書きたいんだろう??と不安になってきました。でも、4人の言動や人生の描かれ方が面白くて、気づけばページをめくってしまっているような状態が続きました。

そして最後にはそれぞれの人生が交差し始めて・・。


なるほど、こういう風にこの人たちは関わっていたわけね・・と納得して読み終えることができました。

この作家さんは他の作品に出てきた人物を少し登場させてファンを楽しませてくれます。私は間が空きすぎたので気付かずスルーしてしまったのですが、後で知って戻って読み直しうれしくなりました。

久々に読んで面白かったですし、泥棒の黒澤のことが妙に好きになってしまったので、黒澤が出てくるという作品も読んでみようと思います。


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posted by DONA at 12:12| Comment(4) | TrackBack(0) | 読書:伊坂幸太郎
この記事へのコメント
でしょ〜。
黒澤さんいいんですよね(^^)
ってことで、フィッシュストーリーを読みまして、もう少ししたら重力ピエロに入ろうと思ってます。
このころの伊坂さんの本は本当にスピード感があり楽しめます(^^)
Posted by igaiga at 2012年10月06日 07:01
>igaigaさん、コメントありがとうございます。

泥棒のくせに、妙にかっこいいですよね〜。説教臭いセリフをさらりと言えて、説得力もある・・。お気に入りの人物になりました。

次はフィッシュストーリーですね?私も追いかけます!
Posted by DONA at 2012年10月07日 16:36
いつも楽しくDONAさんの読み応えのあるレビューを拝読しています。
本当に本をこよなく愛しておられるのが、よくわかります。

伊坂幸太郎さんの「ラッシュライフ」の感想を書かれていますので、コメントしたいと思います。

「金で買えないものはない」と言い切る銀座の画商・戸田と、実際に買われた画家の卵・志奈子。プロフェッショナルの泥棒・黒澤、新興宗教の教祖・高橋を信じる河原崎と、神を解体しようと考えている高橋の側近の塚本、心療クリニックの経営者・京子と現役のプロのサッカー選手・青山、リストラされて再就職先を探している豊田と薄汚れた犬。

彼らの人生が仙台ですれ違います。
仙台駅前にはエッシャー展のポスターがあり、展望台があり、「好きな日本語を教えて下さい」と書かれたプラカードを持っている金髪の白人女性が。
このように5つの物語が同時に展開していきますね。

5つのばらばらの物語がそれぞれに展開し、最後は1つの絵となるという構成。
恩田陸さんの「ドミノ」を彷彿とさせますね。

冒頭から伏線が張り巡らされているのですが、分かってみると案外シンプルな作りになっていると思います。

しかしこの手のタイプの作品には、最後まで読んだ時に頭が混乱して、思わず最初に戻って確かめたくなるものが多いのですが、この作品に関しては、一回読み通すだけで、すんなりと理解できました。

シンプルに見せながらも、それぞれの物語の絡み方は、まさにエッシャーの騙し絵。
やはり構成が巧みなのでしょうね。

中でも、最後の老夫婦がそこに繋がるのか、というのには本当に驚きました。
ただ、登場人物たちの造形がいかにもという感じで、あまり魅力が感じられなかったのが少々残念ではありましたが。

そのせいで、よく出来ているとは思ったのですが、「面白い!」とまでは到達しませんでした。
それでもダントツで魅力的だったのは、プロの泥棒の黒澤。
ハードボイルドで渋いです。そして彼の好きな言葉は「夜」。似合いますねえ。

因みに題名のラッシュライフとは、画商の戸田の言うジョン・コルトレーンの名演で有名な「LushLife」からきていますね。

カタカナで「ラッシュ」になる言葉には「lash」「lush」「rash」「rush」の4つがあり、それぞれが物語に織り込まれています。

一応全体としては、「飲んだくれのやけっぱち人生」「豊潤な人生」のことのようですが、豊田がラッシュアワーの駅を見て思う「RushLife」の方が、イメージに合っているような気がしました。
Posted by 紫陽花 at 2023年08月27日 09:58
>紫陽花さん

コメントありがとうございます。承認が遅くなってすみません。

熱く語っていただいたのですが、この作品についてそんなに詳しく覚えていないんです・・。

本当に気のない返事で申し訳ありません。
Posted by DONA at 2023年09月05日 14:51
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