
薬丸岳 著
「刑事のまなざし」
(講談社文庫)
ぼくにとっては捜査はいつも苦しいものです―通り魔によって幼い娘を植物状態にされた夏目が選んだのは刑事の道だった。虐待された子、ホームレス殺人、非行犯罪。社会の歪みで苦しむ人間たちを温かく、時に厳しく見つめながら真実を探り出す夏目。何度読んでも涙がこぼれる著者真骨頂の連作ミステリ。−裏表紙より−
少年鑑別所の法務技官だった夏目は、10年前に起きたある事件をきっかけに、刑事になりました。
その事件では愛娘が連続通り魔に頭を殴られ、そこから意識が戻らない状態が続いているのです。なかなか捕まらない犯人を探すため、夏目は刑事になりました。
刑事になったからといって、自分の気になる事件だけを負うわけにはいきません。ずっと解決する気配のないまま時が過ぎていきました。
それでも卑屈になることはなく、犯罪を犯した少年と向き合っていた頃のように、優しく真摯に事件と向き合っていく、ある意味刑事らしくない刑事になりました。
彼の人と向き合う姿勢はとても素敵で、被害者はもちろん、加害者の気持ちもほぐしながら、でもきちんと罪をつぐなうためにはどうすればいいか?を考えて、言葉を掛けます。そんな彼の姿を見て心を動かされ、犯人は自首してくることもありました。
取り上げられる事件は、あらすじにもあるように社会問題となっている物がほとんどで、加害者側にも罪を犯したことに対して多少の同情の余地はあるかもしれません。でもだからといって、殺人を容認しているわけではなく、全編を通して「どんな理由があったとしても、人を殺して何かが解決することは無い」という当たり前のことを改めて再確認させられる気がしました。
中には後味の悪い話もありましたが、ほとんどは被害者も加害者も救われる結末になっていました(殺害された者は救われてはいないでしょうが・・)。事件自体は重い物ばかりですが、どこか爽やかな気持ちになれるような、優しい気持ちになれるような作品でした。
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