
山本周五郎 著
「松風の門」
(新潮文庫)
若君のお相手として召出されていた少年が、剣術のお相手中に若君の右目を傷つけ、失明させてしまった。神童とまで呼ばれていた彼が生きた壮絶な人生とは−「松風の門」他「鼓くらべ」「狐」「評釈堪忍記」「湯治」「ぼろと釵」「砦山の十七日」「夜の蝶」「釣忍」「月夜の眺め」「薊」「醜聞」「失恋第五番」計13編収録
若君・宗利が10歳のとき、剣術の相手をした家臣の子・小次郎が払った剣の切っ先が宗利の目に当たってしまい、失明してしまいました。
宗利は、神童と呼ばれて人気のあった小次郎を妬んでいて、小次郎に「自分で転んで傷つけたことにする。誰にも内緒だ」と言って、自分が少し優位にたった気分がしていました。
父親の跡を継いで、領主として国に初めて帰ったとき、小次郎と会おうとするのですが、行方不明になっていました。周りの人に聞くと彼はかなり変わってしまったと言います。神童としての面影は無くなった・・と。
そんなとき領地内で、百姓たちが一揆を企ているという情報があり、穏便に済ませるにはどうすれば良いのか?を話し合っていました。
ところが、小次郎が独断で一揆を起こそうとしている所へ乗り込み、首謀者である浪人者3人を斬ってしまいます。
宗利はその行いに怒り、叱責しますが、家臣は「彼は間違っていない」と主君に教えます。
一揆を起こすことは当時、大罪と言われていました。お上に逆らうんですから・・。だから、穏便に・・とは言っても何も罰しないとお上として面目が立たないわけです。
でも、浪人者に煽られた形の百姓たちを罰すると反感も高まってしまう。だからこそ、小次郎が1人で首謀者を斬ったのです。そして彼はその日のうちに切腹しました。自分の独断でしたことだからお上には関係ない・・と知らせるために。
宗利は彼の想いに気づき、そっと墓参りをするのでした・・。
自分の主君の目を傷つけて、何事もなかったように生きていくのは難しい時代でした。でも主君から「秘密だ」と言われている以上、誰にも言えませんし、理由無く自害することも罪です。
彼は死に場所を探していたわけです・・・。
この本も考えさせられる、悲しい話がたくさん詰まっている作品集です。
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