
角田光代 著
「八日目の蝉」
(中公文庫)
希和子は不倫相手だった男性の家に入った。この時間は赤ちゃん以外誰もいないことを知っていたから。赤ちゃんを一目見るだけのつもりが、思わず抱っこしてしまい、気付けば連れ出してしまっていた・・。そして始まる逃亡生活。素性を隠しながら“薫”と名付けた赤ちゃんと共にあちこち渡り歩き二人の生活は続く。
赤ちゃんを一目見るだけ、本当に生まれたのか確認したかっただけ・・のはずが、赤ちゃんの泣き声を聞き、一目見たとたんに抱き上げてしまっていました。そして連れだしてしまう・・。
1章は希和子と薫の逃亡生活が書かれていて、希和子の視点で話は進みます。2章は赤ちゃんだった薫こと恵理菜が大学二年生になった話が恵理菜の視点で書かれています。
二人の逃亡生活はハラハラドキドキしながら読み進めました。希和子が赤ちゃんを連れだしたときの心の動きや家の様子など、まるで自分もその場にいるかのように書かれていて、一気に話に引き込まれました。
赤ちゃんを産んだことのない希和子が他人の赤ちゃんを育てる・・しかも世間から隠れるようにしながらの生活。並大抵の苦労ではありませんでした。
それでも赤ちゃんの笑顔や仕草に癒されながら、どんどん自分の産んだ子どものような錯覚を覚えて行くのでした。
もちろんそんな生活が長く続くわけもなく・・。
2章では成長した恵理菜の様子が書かれているのですが、逃亡生活中に出会った千草という女性と再会する所から始まります。
千草の存在が、恵理菜に昔の記憶を思い起こさせ、自分の誘拐事件について調べたり、希和子の気持ちを知ろうとします。「なぜ私なのか」この気持ちがどうしても抜けない恵理菜。その苦しさが伝わって来て、読んでいても辛くなってきました。
自分の両親が不倫していて・・とか知りたくないことも知り、希和子がどうして誘拐するほど追いつめられたのか?を理解しようとする・・・。強い心が無いとできないことです。
希和子がしたことは許されることではありません。自分の子どもが連れ去られるなんてどれだけ辛い思いをすることか・・。でもそんな犯罪に走らせてしまった不倫相手(恵理菜の父)はもっと許せない! 身勝手なこの男性に怒りがわいてしまいました。
希和子が薫と引き離される瞬間に叫んだという言葉に涙し、最後に少し希望の光りが見えて涙し、たくさん泣いた話でした。
↓ ランキングに参加中


タグ:角田光代