山本周五郎著 「大炊介始末」
(新潮文庫)
大炊介(おおいのすけ)は、相模守高茂の長子に生まれた。健康に賢い子に育った彼を家臣たちも「名君になられる」と楽しみにしていた。ところが18歳の秋、1人の家臣を突然手打ちにして以来、精神的に不安定になり、国許で過ごす間も酒を飲んで暴れたり、手打ちにしたり狂態は増悪するばかりだった。そんな若殿を見かねて相模守は、命をちぢめるように命令を下した。命を受けて国許へ向かった兵衛は、なぜ若殿が狂ってしまったのか探り始めた−「大炊介始末」他「ひやめし物語」「山椿」「おたふく」「よじょう」「こんち午の日」「なんの花か薫る」「牛」「ちゃん」「落葉の隣り」計10編収録
藩主にしては優しすぎたため、苦しむことになった大炊介。自分よりも周りのことばかりを考えてしまい、悩みを誰にも相談できず、結局自分が悪者になる道を選ぶのでした。
そんな彼のことを小さい頃から知っていた兵衛は、彼の学友として城にあがり、共に勉強し剣術の稽古もしてきました。
学友の中で誰よりも若殿にかわいがられた兵衛は、若殿を討つ役目を負いました。でも簡単に命じられた通りに討つことができず、国許での様子を聞いて回り、最後は若殿の元へ行って、話し合いをすることに。
なぜ若殿は突然、狂ってしまったのか。若殿の側近たちはなぜ今でも彼を慕っているのか。
悲しい大炊介の気持ちと苦しみ、そして家臣たちの慕う気持ちに涙が出そうになる話です。
「おたふく」は、自分の顔を「おたふくのようだ」と思い込み、控えめで自分に自信が持てない女性の話。おしず、おたかという二人の姉妹がいたのですが、二人とも周りから評判になるくらいの美人姉妹でした。ところが、本人たちは本気で「自分は醜い」と思いこんでいて、周りの人に気遣い、控えめに静かに暮らしていました。
おしずは母親の面倒を看ていたせいもあり、婚期を逃してしまったのですが、36歳になったとき初めて縁談が持ち込まれます。嫁いだ彼女は甲斐甲斐しく世話を焼き、近所とも仲良く暮らしていたのですが、あるとき夫から疑いを持たれます。
彼女の秘めた想いに思わず涙がこぼれる、素敵な話です。
「よじょう」は、宮本武蔵に斬られた料理人の息子の話。出来心から天下の剣豪に対し、包丁を投げつけた料理人。武蔵は思わず斬り捨ててしまいました。
周りの人たちは「何も斬り殺さなくても・・」と不満げでした。でも息子は特に気にすることもなく家出をします。その後、たどり着いた所が偶然にも武蔵の家の近くでした。
そこで周りは「やはり父親の敵をうつつもりなんだ」と勝手に解釈し、武蔵自身もそう思い、日に何度も息子の小屋の付近をそっくり返って歩いて見せます。
その様子を鼻で笑う息子。 息子の周りで起きる、他人の勝手な思い込みによる出来事に思わず笑ってしまいます。
「よじょう」とは、昔、敵を討とうと捜し回っていたのに見つけられず、見つけたときには相手は病気で死んでいたため、着ていた着物を代わりに斬って恨みをはらそうとした・・という故事のことです。
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