山本周五郎著 「深川安楽亭」
(新潮文庫)
「安楽亭」という飲み屋は抜け荷(密貿易)の拠点となっている。そのため、命知らずの若者が出入りしていて、見知らぬ客は入ることができない。そんな安楽亭にあるとき見知らぬ客が入り込んで酒を毎晩飲むようになっていた−「深川安楽亭」他「おかよ」「上野介正信」「百足ちがい」「四人囃し」「あすなろう」「枡落し」など計12編収録
その客は誰にも気づかれずそっと入って来たようで、突然大声を出さなければずっと気づかれずに終わったかもしれないくらい、存在感の無い客でした。
一度来てからはなぜか当たり前のように常連となり、毎晩飲んでは「金はある!」と叫んでいたのですが、それでもやはり存在感のない状態が続きました。
ある晩、安楽亭に出入りしている若者がお店者を連れて戻ります。彼は恋人の身請金欲しさに、店の金を盗んで袋叩きにされていました。
大金が欲しい彼は、「金はある!」という客から奪い取ろうと計画するのですが・・。
十手持ちも入れないこの店で起きる、暗い雰囲気の話。でも、妙に涙を誘う悲しい話でもあります。
「おかよ」は、足軽で引っ込み思案の弥次郎が戦で手柄をたて、出世する話。茶屋で勤めるおかよと出会い、おかよは戦に行く弥次郎へお札を渡し「手柄をたててくれ」と祈ります。弥次郎は「戦へは行きたくない」という思いだったのですが、おかよのためにがんばり、手柄をたてます。
ところがおかよは弥次郎の前から姿を消します。茶屋の女では身分が違いすぎて、足を引っ張ることになるから・・と言うのです。「女というのは、自分の一生を捧げた人のために一度でも役に立てたらそれでいい」というおかよの気持ちは潔くて、そして悲しい結末でした。
短い話なのですが、ぎゅっと詰まっている感じでとても深い話になっています。
「百足ちがい」は、又四郎というおっとりした武士の話。幼い頃せっかちで短気だった彼にある和尚が“参つなぎ”という方法を教えます。そのとき腹が立っても3日待つ、それでもダメなら、3カ月、3年・・と待ってみると考えも変わるという思想なのですが、それを忠実に守るあまり、決闘にも間に合わず、役に立たない男として位置づけられてしまいました。一足ちがいではなく、百足ちがいなんですね。
そんな彼の行動がかなり笑える話です。
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堂場瞬一著「熱欲」
やっとシリーズ3冊目。