山本周五郎著 「ひとごろし」
(新潮文庫)
福井藩きっての臆病者という不名誉な評判をたてられた双子六兵衛が、上意討ちのためにお抱え武芸者だった仁藤を追って旅に出ることになった。剣の腕もなく、臆病な六兵衛が決行した上意討ちの方法とは?−「ひとごろし」他「壺」「暴風雨の中」「雪と泥」「鵜」「女は同じ物語」「しゅるしゅる」「裏の木戸はあいている」「地蔵」「改訂御定法」計10編収録
特別に何か臆病だというエピソードがあったわけではないのに、あまりにも平凡だったからか「臆病者」という評判になってしまった六兵衛。
武士が「臆病者」というのはかなりの不名誉で、特に実務もない双子家にとってはちょっとした危機でもありました。
たった一人の肉親でもある妹のおかねからは「嫁に行けない」「縁談話が持ち込まれないのは兄のせいだ」と文句を言われ続けていました。
そこで起きた事件、そして上意討ち。思わず立候補してしまった六兵衛は、仁藤を討つための旅に出ます。上意討ちを果たすために六兵衛がとった行動は武士らしくなく、笑えます。
「裏の木戸はあいている」は、私が特に気に入っている話です。高林喜兵衛は、幼い頃、近所にいた一家が少しの金が無かったせいで心中してしまったのを見て、本当に困っている人の役に立ちたい・・と、裏の木戸を開けてそこに少しの金を入れた木箱を置いておきました。
金に困った人はそこからそっと金を持って行き、返せるときに返すのです。始めは戻ってくる金も少なくて、喜兵衛は自分の家計を切り詰めながら木箱の金を足していました。最近は戻る金も増えてきたのですが、実は隣人の久之助も気づいてこっそり足しておいてくれたのです。
武士が町民の暮らしを気遣って、こっそりと金を貸していることや、隣人でもあり友人でもある久之助の喜兵衛を助ける気持ちが読んでいてほんのり沁みる、良い話です。
「壺」も好きな話です。百姓の家に生まれた七郎次は剣術がうまくなり、それを自慢に思っていました。あるとき、荒木又右衛門という剣術使いの家に奉公することになり、剣術を教えてもらおうとしました。
すると又右衛門は「庭にある杉の影が移る所に極意を書いた壺がうまっているから見つけ出すように」と言います。その日から必死で土を掘っていた七郎次でしたが、気づけば草や瓦礫を横へ投げて畑を作っていたのです。
それを見た又右衛門は「刀法の達人になれば武士の資格があるのではない。さむらいとは『おのれ』を棄て、御しゅくんのため、藩のため国のためにいつなんときでも命をなげだす者のこと」と諭します。
この本も笑いあり涙ありで面白い作品集です。
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引き続き「料理教室の探偵たち」
もうすぐ読み終わります。