山本周五郎著「小説 日本婦道記」
(新潮文庫)
紀州徳川家の年寄役で、千石の食禄をもらっていた佐野家の主・藤右衛門は「松の花」という稿本に朱を入れていた。「松の花」は、藩譜のなかに編まれる烈女節婦の伝記と、紀州家中でほまれ高き女性たちを記録したものだった。ところが、妻が重態のため集中できずにいた。妻が静かに息をひきとってから、妻の知られざる面を目の当たりにし、藤右衛門は驚いてしまう−「松の花」他「梅咲きぬ」「二十三年」など計11編収録
武家の生活というのは、対面を保たないといけないため、意外と内情は火の車だったりしたようです。
佐野家は千石録りですから、千石に見合った家を保つ必要があります。家の造りはもちろん、家来やお手伝い的な人たちの数も揃える必要があるのです。
藤右衛門は、現役のときは忙しさもあって、家のことはほぼ何も知らずにいました。大金が必要だったとき、サッと出して来る妻の様子を見ても特に不思議には思っていませんでした。
でも本当は妻が奥向きで倹約してきたからこそできたことだったのです。妻が亡くなったとき、家来たちが泣き続けているのを見て「そんなに慕われていたのか・・」と初めて思った藤右衛門。妻の形見分けをさせるため遺品を整理すると、数の少なさ、そして着物の質素さに驚かされます。
家来たちの祝い事には、新しく立派な物をあげていたという妻。でも自分の着物には継ぎをして、色あせても新しい物を作ろうとはしなかったのです。
亡くなって初めて妻の献身ぶりに気づかされました。
「梅咲きぬ」は、嫁の習い事を次々と変えさせる姑の話。加代は、姑・かなと上手くやっているのですが、習い事だけは自由にさせてもらえず「もう少し道を極めたい」と思ってもすぐに「もうこれは良いから次を・・」と言われてしまいます。始めは姑を恨んだ加代でしたが「妻が身命をうちこむのは家をまもり良人に使えることで、習い事で道を極めようとすると“妻の心”に隙ができてしまう」と諭され、姑の気持ちを知って晴々した気持ちになります。
「二十三年」は、ある武家で乳母をしていたおかやという女性の話。5歳のときに母親を亡くした男児を育てるため、おかやはずっと仕えていきますが、ある日遠くへ旅立つという主・靱負に暇を出されます。それでもどうしても付いて行きたかったおかやは、事故に合い、頭に障害が残って口がきけないし、ぼんやりする・・という振りをしてついていきます。
厳しい武家の生活の中で、夫や家、子どものために行きぬいた妻や母たちの優しさと強さ、生き方の美しさ、哀しさなどが書かれている短編集です。泣いてしまう話もたくさん・・。
とてもページ数の少ない本で、この作家さんらしい文章や物語がたくさん詰まっています。読みやすいと思うので、ぜひ読んでみて下さい。
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うちにある本はもうすっかり色が変わってしまっています・・。価格を見たら240円でした。今では500円くらいするみたいですね。
引き続き「ロミオ」
まだまだかかるかも・・??