山本周五郎著 「あんちゃん」
(新潮文庫)
自分の妹に対して恋心を抱いてしまい、間違いを犯しそうになった兄・竹二郎は、自分の醜い行いを恥じて家を飛び出す。その後は、いくら妹に説得されても家へは寄り付かず、父親の死に目にも会えなかった。久しぶりに帰った家で待っていた妹から思いがけない話を聞かされる−「あんちゃん」他「いさましい話」「菊千代抄」「思い違い物語」「七日七夜」「凌霄花」「ひとでなし」「籔落し」計8編収録
あらすじを読むと「え!?

私には兄弟がいないので兄弟を好きになってしまう気持ちはよくわかりませんが、この竹二郎は「叶わぬ恋」というよりも「こんな感情を抱く自分は人間ではない」とまで思いつめて、自分を痛めつけます。
その行動や想いが痛いほど伝わって、涙が出てしまう部分もあります。
最後はうまく収まるのですが、意外な結末です。それでも何だか納得できてしまうのが不思議です。
「菊千代抄」は、女なのに男として育てられた菊千代という若様の話。昔から伝わる風習として、最初に女子が生まれると男子として育てることになっていたため、菊千代は後継ぎの男子が生まれるまで男子として育てられました。自分が実は女だと気づいてからの菊千代の悲しみがたまりません・・。
「凌霄花(のうぜんかずら)」は、商家の一人娘と武士の一人息子の恋の話。商家の娘と武士は、昔は結ばれない運命でした。それでも娘を武家に養子に出してから結婚することはありましたが、この話の娘・ひさ江は一人娘だということで、それも難しい状態でした。だからせめて一年に一度、凌霄花の咲くときに会おうと約束をします。
「七日七夜」は、旗本の四男坊という境遇に生まれた武士の話。貧乏旗本の四男坊といえば、貰い手もなく、長男の世話になるしかない存在で、この話の昌平もかなり雑な扱いを受けます。それでも我慢を重ねてきましたが、とうとうキレてしまい、家を飛び出します。
生まれたときの運命というか、境遇に翻弄されながらも必死で生きていく人たちの話が多い短編集です。
最後にはみんなそれぞれ納得のいく終わり方をしているので、読み終わっても幸せな気持ちが続く感じがします。
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乃南アサ著「鎖(上)」
面白いです
この文庫もそのとき読みました。あの温かさ・・懐かしい。
「赤ひげ診療譚」もよかったなぁ・・。このヒトの時代(市井)小説は、しっくりと時代の雰囲気までも感じられるのがいいです。藤沢以降の作家のものは、読んでいると舞台背景がセットのような作り物に感じられてしまうので。
DONAさんはまた池波正太郎の剣客商売、鬼平の両シリーズなど読破されているとのこと、驚きました(畏敬するばかり)。藤沢作品は、苦手だとか(そう・・暗いかも)。
DONAさんお気に入りの「しゃばけ」シリーズ、
いま自分は2冊目を愉しく読んでいます。
この作品の舞台(薬種問屋の長崎屋)も大道具さん・小道具さんの頑張りで、しっかり作りこんだオープンセットの趣ですが、物語の性質上そのあたりは気にならず読めそうです。
池波正太郎は、山本周五郎より少し遅れて読み始めましたが、読んだらはまってしまって、一気に読み進めた覚えがあります。
naoさんのコメントを読んで、ずっと疑問に思っていたことが解決した気がしました。確かに舞台背景が軽い感じなんですよね・・。それで畠中恵の作品を読んでいてもしっくりこない部分があったんだ・・。納得です。ありがとうございました。