
帚木蓬生 著
「閉鎖病棟」
(新潮文庫)※電子書籍
とある精神病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった・・。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは―。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。−出版社HPより−
初めましての作家さんです。現役の精神科医なんですね。
この作品、名前を聞いたことがあると思ったら、映画化されていたんですね。芸人さんがテレビで何度も言っていたので覚えていたようです、あの人はどっちの役なんだろう?ちょっと気になります。
物語の始まりは、とある産婦人科から。そこに父親の名前を伏せて堕胎手術を受けようとする少女の姿がありました。彼女が精神病棟に入院する話なのかと思ったら、ある精神病棟の日常が描かれ始めます。
ここに入院しているのか?と読み進めるとどうやらそうではないようで、この病院で行われている陶芸教室に通っている少女があの子なんだ、とわかってきます。
何やら心に傷を抱えていて、学校に通えていないらしい彼女のことを、精神病棟に入院している患者たちが付かず離れず見守っています。彼らと少女のやり取りは微笑ましくて良かったです。
しばらくは何も大きな事件が起きるわけではなく、ある意味淡々と日常が過ぎていきながら、入院患者たちのそれまでの人生が時々描かれ、どんな経緯で入院しているのかもわかります。
ほとんどの人は家族から捨てられるようにして入院している状態。読んでいるとそこまで大変なのか?と思うほど安定している人もいますが、入院して落ち着いただけで、以前は荒れていたんだとわかります。中には犯罪を犯している人も。
それぞれの人となりを読んでいると、事件が起きてしまいます。これは仕方ないというか、動機としてはわかる気がします。ただ、なぜ彼が?とは思いますが、そこは後で明かされますし、そこがこの物語の最大の見せ場にもなっています。
終始なんとなく暗い感じで進む物語ですが、最後は幸せな気分にさせられる終わり方をしていて、読んで良かったと思えました。
みんな幸せになってほしいと強く願ってしまいます。
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タグ:帚木蓬生
帚木蓬生さんの「閉鎖病棟」について、簡単なコメントをしたいと思います。
出だしは、宿命的な事情を抱えた人々のエピソードが描かれ、やがて、彼らが福岡近郊の精神病院の患者となって一堂に会する辺りから、本来の物語が動き出していきますね。
問題はその「本来の」という点で、この本の目玉は、様々な事情から精神に異常を来たしたり、社会生活からはみ出してしまった人々が、紆余曲折の後、癒され、再生していく姿にあるのだと思います。
そのクライマックスでは、殺人事件も用意されていますが、特にミステリ的な趣向を凝らそうとはせず、人間を優しい眼差しで、静かに凝視するだけ。
現役の精神科医でもある作者の、ヒューマンな作風が全開した作品だと思います。
コメントありがとうございます。
いつも的確な感想ですね。事件自体はともかく、その後の様子とか、彼らが今後どう生きていくのか?が大きなテーマになっていますね。誰にでも起こり得る精神的な病にどう向き合うのか?色々考えさせられる作品でした。