
角田光代 著
「紙の月」
(ハルキ文庫)※電子書籍
ただ好きで、ただ会いたいだけだった。わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が1億円を横領した。正義感の強い彼女がなぜ? そして――梨花が最後に見つけたものは?! あまりにもスリリングで狂おしいまでに切実な、角田光代の傑作長篇小説。各紙誌でも大絶賛され、ドラマ化もされた第25回柴田錬三郎賞受賞作が、遂に文庫化!−出版HPより−
この作家さんの作品は「八日目の蝉」以来です。同じようにずっしりと重い内容で、女性は共感しやすいかもしれません。私は共感出来ませんでしたけど。
主人公は梨花という41歳の女性。夫と二人暮らしで専業主婦でしたが、パートとして銀行で営業の仕事を始めました。
専業主婦で良かったのですが、子どもが出来なかったことで時間を持て余してしまったことと、社会から置いて行かれている感じがしてしまったことが理由で働くことにしました。
その気持ちは同じ女性として何だかわかる気がします。結婚するまでは「いつ結婚するの?」と聞かれ続け、結婚したら「いつ子どもが出来るの?」と聞かれ続ける女性。もちろん男性もあるのでしょうが、女性は特に「結婚して子どもを産んで一人前」という昔からの既定が強いと思います。
でももし子どもが出来なかったら、専業主婦でいるのも何だか違う気がします。もちろんそれで満足な人もいるでしょうが、梨花は満足できない女性でした。
パートとはいえ、銀行員として色々なお宅へ行っては定期口座などを作ってもらったり、口座を新設してもらったりして、お客様からほめてもらえると充実した毎日が送れるようになります。
少ないながらも自分で働いて手に入れた給料は特別な思いになりますね。たまには夫にごちそうしてあげようと、ちょっとしたお店に連れて行くのですが、そこでの夫の反応から梨花の気持ちに変化が。
この部分はとてもよくわかりました。この夫は自分では遅れた感覚の持ち主だとは思っていないでしょうけど、女性からしてみればかなり遅れている感覚を持っていて、「女性よりも男性の方がたくさん稼げる」とか「女性よりも男性の方が稼いで養うのが当たり前」とか「女性は男性に食べさせてもらわないと生きていけない」とか思っているわけです。
でもそれを言っては「感覚がズレている」と思われるのでは?というのはわかっているので直接的な言い方はしません。だから遠回しに「お前より俺が上だ」と言ってくるわけです。
梨花としてみれば「それは当然でしょ?パートなんだから、夫が働いてくれないと食べていけないに決まっている」と思っているのですが、わざわざ言われることに違和感を覚えます。
そういう小さい出来事からどんどん話が展開していき、気付けば銀行員という立場を利用した大事件を起こすことに。
犯罪に手を染めていく理由も動機も何だか共感出来なかったので、後半はひたすら「何でこうなったの?」と疑問に思いながら読み進めました。
話の展開の仕方が、時系列バラバラになっているのも読みにくかったです。始めから梨花という女性が事件を起こしたと知って、過去に彼女と関わりのあった人たちがどういう気持ちになっているのか、また彼らが現在どんな生活を送っているのかなどが描かれていて、そういう場面っているのかな?と疑問でした。
それよりも、梨花の夫からの視点があったら面白かったのでは?と思います。それを書いてしまったら想像する部分が減るのがよくないのかもしれませんが、夫の存在がどんどん薄くなり、事件発覚後に全く登場しなくなるいことには違和感がありました。
面白かったとは思うのですが、色々不満な点もある作品でした。
とりあえず、人というのはとても弱い存在で、ちょっとしたきっかけさえあればいくらでも転落していくことが出来るということはよくわかりました。現実世界でニュースになる横領事件の犯人もこんな小さな出来事がきっかけで起こしているのかもしれません。そう思うと誰もが犯罪者になる要素があるんですよね。ちょっと怖くなりました。
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