
伊吹有喜 著
「BAR追分」
(ハルキ文庫)
新宿三丁目の交差点近く―かつて新宿追分と呼ばれた街の「ねこみち横丁」の奥に、その店はある。そこは、道が左右に分かれる、まさに追分だ。BAR追分。昼は「バール追分」でコーヒーやカレーなどの定食を、夜は「バー追分」で本格的なカクテルや、ハンバーグサンドなど魅力的なおつまみを供する。人生の分岐点で、人々が立ち止まる場所。昼は笑顔が可愛らしい女店主が、夜は白髪のバーテンダーがもてなす新店、二つの名前と顔でいよいよオープン!−裏表紙より−
「スープの時間」「父の手土産」「幸せのカレーライス」「ボンボンショコラの唄」の4話が収録された連作短編集です。プロローグで、ねこみち横丁にある“BAR追分”の様子がわかるようになっています。
“BAR追分”は、昼と夜で店の内容が変わります。今流行(?)の宿借り店舗ですね。夜はバーテンダーのいる「バー」で、昼は女店主の営む「バール」になります。昼はランチも出していて、なかなかの人気。夜も美味しいつまみがある本格的なバーで、こちらも人気です。
各話で視点となる人物が変わっていますが、他の登場人物はみんな同じ。特に最近この横丁に入ってきた男性は全ての話に出てきて、重要な役目をはたしています。彼のお陰でこの横丁の不思議な雰囲気が伝わりやすくなっています。彼がいなければ、すごくマニアックな内容になって、読者はおいていかれそうです・・。
どの話も特に大きな変化があるわけではありませんが、かといって、平凡な日常だけではないそれぞれのストーリーがあって、飽きずに楽しんで読めました。
特に気に入ったのは「父の手土産」と「ボンボンショコラの唄」です。
「父の手土産」は、以前からこの横丁に通っていたという男性がもうすぐ結婚する娘を連れて来る話なのですが、父親の想いと娘の何ともじれったい父に対する気持ちがとても共感できて、何度か涙してしまいました。父と娘ってなぜか素直になれず、難しい関係です・・。
「ボンボンショコラの唄」は、それまでの話と違ってちょっとしたどんでん返しのような物もあって、え!?そうだったのか!という驚きがありました。他の話もそうですが、それ以上に大人の雰囲気漂う素敵な話でした。最後の場面は映像が頭に浮かぶくらい、素敵な終わり方をして、しんみりと良い雰囲気になりました。
この話はまだまだシリーズとして描いていけそうです。色んな人生を背負ってきた人たちの憩いの場として、たくさんの話題がうまれそうです。続きが出版されることを楽しみに待つことにします。
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