2023年04月20日

知野みさき「深川二幸堂菓子こよみ」

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 知野みさき 著
 「深川二幸堂菓子こよみ」
 (大和文庫)※電子書籍


「餡子だけじゃつまらねぇ。菓子を作れよ、孝次郎ー」深川で菓子屋「二幸堂」を始めた兄・光太郎と弟・孝次郎。ほんのり甘酒香る薄皮饅頭「斑雪」、桜の花弁を模した上生菓子「恋桜」、黄身餡が贅沢な「天道」と十四夜の月の如く控えめな甘さの「幾望」、柳の青葉が風情涼やかな錦玉羹「春の川」、薄紅色の白餡大福「紅福」。ー不器用な職人・孝次郎の作るとびきりの菓子が、人と人とを繋げ、出会いをもたらし、ささやかな幸福を照らし出すー。江戸の菓子屋を舞台に描かれる、極上の甘味と人情と、つたない恋。兄弟の絆と店を支える人々の温かさに心震える珠玉の時代小説!−出版社HPより−


物語の始まりは火事の様子から。逃げ出したはずの兄が大事な道具を取りに火の中に飛び込みます。それを助けるために弟も戻り、火事に巻き込まれてしまいます。そこへやって来た父親。彼は2人が火に飲まれているのを見て、弟に「すまない」と言って兄を助けようとします。何とも切ない始まり方です。

結局、兄弟も父親も助かったことが次の話でわかるのですが、危機的状況の中で、2人の息子のうち兄だけを助けようとした、弟を見殺しにしようとした父親の心境を思うといたたまれません。もちろん、謝られて置き去りにされそうになった弟の気持ちも辛い。でも弟は父親に対して何の恨みも抱いていませんし、兄を助けようとした父の気持ちがわかっていました。兄のことも恨んではいません。

2人とも不器用だったせいで話し合うことが出来ず、何となく気まずい雰囲気のまま父親が他界してしまいます。そこまでが何とも切なかった・・。かなり短縮して圧縮して語られるのでページ数は少ないですが。


物語のメインは、弟が奉公に出ている店から兄が引き抜いて来て一緒に店を始める所から始まります。いつの間にか奉公に出ていた弟。ここは突然の展開にちょっとびっくりしました。しかも、奉公先でかなり年月が経ち、和菓子職人として良い腕を持っているのに、新しい店主に嫌がらせをされて餡子しか作らせてもらえなくなった所から始まります。なぜ嫌がらせをされているのか?などの事情も足早に描かれています。読者としてはそこは同情するよりも「へえ〜そうだったんだ」という程度の感想しか出ないです。

そして、兄が迎えに来て和菓子店を兄弟で開くことに。兄・光太郎と弟・孝次郎で「二幸堂」良い名前です。数年間餡子しか作らせてもらえなかった孝次郎が張り切って和菓子を作って、光太郎が持ち前の人なっつこさと明るさで売っていきます。

お互いに気を使いながら、でも言いたいことを言い合うようにしてうまく店を切り盛りしていく2人。余裕が出来てからは見習いを兼ねて従業員も雇えるようになりました。その女性が良い味を出していて、一気に好きになりました。

彼女も入れてますます順調な二幸堂。色々と問題は巻き起こりますが、美味しそうな和菓子と、兄弟の人柄、お客さんの話など面白い部分がたくさん。

恋愛模様が鼻に付きますが、まあこれくらいなら何とか我慢できそうです。

まだシリーズは続いているようです。早めに続きを読んでいきます。


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タグ:知野みさき

2023年04月11日

柚月裕子「孤狼の血」

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 柚月裕子 著
 「孤狼の血」
 (角川文庫)


昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが・・。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。−裏表紙より−


極道の世界が描かれている話は何度も読んでいますが、彼らの世界って昔の武士の考えとよく似ていて、命を懸けても仁義を通す所や、親兄弟を守る所なんかはある意味かっこよくもありますが、やはり読めば読むほど関わりたくないと思ってしまいます。一般人を巻き込まないではいられないですからね。彼らにとっては一般人は家族の仇を取る時に邪魔になったら排除するべき存在ですし、もし家族が名誉を傷つけられても絶対に許さないですから、敵になるとかなり怖い存在です。

最近は色々法律も出来て規制も厳しくはなっていますが、それでも抜け道はありますし、警察内部にも協力者がいるなんていう話を読む度に本当かもしれないと怖くなります。あり得そうですよね。政治家との関係も濃いそうです。


ここに登場する刑事は、マル暴らしいヤクザのような風貌の大上刑事。しかも癒着が噂されるような、ヤクザと近い存在の刑事。そんなベテラン刑事と組むことになったのは日岡刑事。新人ながら高学歴で頭は良いようです。そんな彼に大上は煙草を咥えて見せます。そして「火を点けろ!」と怒るのです。冗談かと思いましたけど、あわてて火を点ける日岡。「先輩がタバコを咥えたら火を点けるのが当たり前」だと言います。

それこそヤクザのようなことを言いだす彼に戸惑いますが、とりあえず精いっぱい気遣いながら共に捜査していきます。

噂されるような癒着があるか?はわかりませんが、ヤクザと馴染みの関係ではあるようで、次々家を訪ねていっては親し気に話していきます。

捜査というよりは茶飲み相手とお茶しているような感覚です。とはいえ、相手はヤクザですから、多少のピリッと感はあるわけですが。

大上のやり方ははっきり言ってグレイというより黒な状態。1人の人間としては良いかもしれませんが、警察官としては絶対にダメなやり方。相手が相手だけに綺麗ごとでは済まないのでしょうが、それにしても・・。でも彼に起きた出来事はひどすぎるとは思います。

日岡はどんな刑事になっていくのか?楽しみなような怖いような。
普通ならシリーズ物は早く追っていきたくなるものですが、これはちょっと間を空けて追うことにしようかな。続けてヤクザの話は読みたくないけど、日岡のことは気になるので。


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タグ:柚月裕子

2023年04月04日

霜月りつ「神様の子守はじめました。6」

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 霜月りつ 著
 「神様の子守はじめました。6」
 (コスミック文庫α)


普通の人間である羽鳥梓はアマテラスから国の四方を守る四神の子供たちを預かり、毎日小さな不思議体験をしながら子供たちと一緒に楽しい日々を送っていた。子供たちも個々に自分たちなりの世界を作り出し、性格もはっきりし始めている。白花は迷い猫を探しに猫の集会に参加しようとしたり、蒼矢は友だちを助けるために魔縁と戦おうとしたり・・。思いがけない出来事の連続で羽鳥梓はますます四神から目が離せない!!−裏表紙より−


1話目から梓が大ピンチ。頭を打って気を失った梓を助けようと子どもたちが力を使ったために、どんどん若返っていくという状況に。子どもたちに出会う前に記憶が戻ろうとするため子どもたちを忘れるというか覚えておらず、彼らを見ても「誰?」状態。

子どもたちを忘れたくないという強い思いで何とか正気を保っているという大ピンチ。そこで梓たちが向かったのは、あの「竜宮城」! そうか、玉手箱で戻るわけね、と妙に感動してしまいました。ここに出てくる乙姫様はコメディを見ているかのような面白さ。そしてある意味怖くもあって笑えました。

子どもの頃に「浦島太郎」を知ってから、ずっと謎な話だと思っていましたが、ますます意味がわからない話だと改めて思いました。浦島太郎の教訓は、「カメは助けてはいけない」なのだろうか?と思ってしまいます。いくら楽しくてもあそび過ぎたらだめだよ、という教訓なのか? 言いたいことはわかるけど、せっかくカメを助けるという良いことをしたのは帳消しになるのか? 謎なお話です。


2話目以降は、子どもたちそれぞれの活躍が読めます。蒼矢の話は特に良かったです。まだまだ小さい幼いと思っていた彼が何だか大きく見える、たくましく思える話でした。ちょっと悲しくもありましたが、彼にとって大事な友だちが出来たのはとても良いことです。

ただ、友だちと成長の速度が違うのがどうなるのか?は心配ではありますが。ここからは速度を落とすのか? そうでないと、頻繁に引越しする必要がありそうです。


何はともあれ、今回もほのぼのした雰囲気の中での読書、楽しかったです。
殺人事件やドロドロ恋愛物を読んで疲れた心にぜひどうぞ。


<神様の子守シリーズ>
「神様の子守はじめました。1」
「神様の子守はじめました。2」
「神様の子守はじめました。3」
「神様の子守はじめました。4」
「神様の子守はじめました。5」


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タグ:霜月りつ

2023年04月03日

3月のまとめ

孤狼の血 (角川文庫)孤狼の血 (角川文庫)
読み終わるのに時間がかかってしまった。面白くないわけではないのですが、警察官とは思えない言動が気になって何度も同じ所を読んで進まず。先輩がタバコを出したら後輩が火を点けるなんて、それこそヤクザみたいで気になりました。そんな人を尊敬するのは不思議です。可哀そうでもありましたが、最後は立派に成長したようで良かったのかも。
読了日:03月06日 著者:柚月裕子


ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VII レッド・ヘリング (角川文庫)ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VII レッド・ヘリング (角川文庫)
一昔前に一時期ブームが起きていたアレのことも出てきて懐かしい気持ちになりました。絶対見つかるわけないのにたくさんの番組で専門家が出てきて、色んな根拠を並べてはあちこち掘り返していましたね。この話でスッキリした気がします。聖書まで絡めてなかなか壮大な内容でした。自分がきちんと理解出来ているかは不明ですが・・。
読了日:03月14日 著者:松岡 圭祐


深川二幸堂 菓子こよみ (だいわ文庫 I361-1)深川二幸堂 菓子こよみ (だいわ文庫)
お父さんの苦悩を思うと心が痛い・・そんなことを考えている暇もないほど時間は過ぎていき、あっという間に自立して兄妹仲良くお店をやることに。その前の段階ももっと描いて欲しかった気はしますけど、そこに時間をかけると軸がぶれるのかな?番外編みたいにして描いてくれたら嬉しいです。兄弟だから言い合えるけど、兄弟だからこそ言えないこともありますね。近いけど遠いような不思議な関係性です。
読了日:03月20日 著者:知野 みさき


さまよえる古道具屋の物語 (文春文庫 し 34-22)さまよえる古道具屋の物語 (文春文庫)
なかなか不思議で不気味で複雑な心境になる話でした。そして悲しかった。最後はみんな前向きになってくれたから救われたけど。
読了日:03月30日 著者:柴田 よしき


全部で4冊。相変わらずスローペースです・・。

「孤狼の血」が時間かかりすぎでした。

posted by DONA at 13:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書:まとめ