
今野敏 著
「炎天夢」東京湾臨海署安積班
(ハルキ文庫)
東京湾臨海署管内で強盗事件が発生。強行犯第一係は、交機隊小隊長・速水の協力を得て、夜明けを待ち家宅捜索を開始、犯人の身柄を確保した。しかし、続けざまに無線が流れ、江東マリーナで死体が浮かんだという。被害者はグラビアアイドルの立原彩花と判明。近くのプレジャーボートで被害者のものと思われるサンダルが見つかった。ボートの持ち主は、立原が愛人との噂がある芸能界の実力者だというが……。芸能界を取り巻くしがらみに、安積班が立ち向かう! ドラマ化常連の大人気シリーズ待望の文庫化。−裏表紙より−
前作は短編でしたが、今作はまた長編に戻りました。お陰で読みごたえ十分です。ただ、長編になると事件も大きくなり、捜査本部が出来るせいで安積班がバラバラに動くのが残念です。
それぞれ本庁の人間と組んで捜査に当たりますが、それはそれで活躍はしているようです。でもやはりメンバー同士の絡みが読めた方が個人的には嬉しいのですが・・。
捜査本部になると、人数が増える分、活躍の場所が少ない気がします。須田は相変わらず鋭い観察力で安積だけではなく、捜査本部でも意見が採用されがちですし、村雨はいざという時に安積の良い相談相手になってくれますが、それ以外のメンバーが目立たない。そこがどうしても残念です。
今回の事件の被害者はグラビアアイドル。でもそこまで有名ではなく詳しい人は知っているという程度の人物でした。グラビアアイドルが殺されたということよりも、彼女が芸能界の大手事務所の所長の愛人ではないか?ということの方が大きな問題となりました。愛人との仲がこじれて殺害したのではないか?という容疑がかかったわけです。
まあ当然考える動機ですよね。相手が業界の大物ということで、安積警部補が事情聴取に訪れます。高圧的な態度をとる人が多い警察官ですが、彼はとても紳士的に対応するので、容疑者も比較的素直に話してくれることが多いようです。業界の大物と聞いたらかなり怖そうなイメージになりますが、聞き出すのがうまい安積係長のお陰で好印象になりました。
このシリーズの醍醐味である、警察内の人間関係の問題ももちろんしっかりと描かれています。今回は捜査本部内での色々な人間関係でした。捜査を指揮する人物の思惑や立場、そして安積係長の捜査本部内での立ち振る舞いなど、読み応えのある内容でした。
表面だけ見ていたらきっと彼は自信満々で意見を変えない真っすぐな警察官だと思うのでしょうが、内側では色々悩んでいたり、ものすごく周りに人間の思惑などを考慮して発言していたりする、迷いも多い人だとわかります。そこが人間臭くて好きな所です。
シリーズはまだまだ続きそうです。今度はまた安積班だけの話も読みたいです。
<安積班シリーズ>
「二重標的」
「虚構の殺人者」
「硝子の殺人者」
「警視庁神南署」
「神南署安積班」
「残照」
「陽炎」
「最前線」
「半夏生」
「花水木」
「夕暴雨」
「烈日」
「晩夏」
「捜査組曲」
「潮流」
「道標」
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